| Home |
2012.07.14
即興のSS
「そんな泣きそうな顔すんな。サクッとカまして来てやるよ」
「……ここでホームラン打てたら、俺と付き合え」
「……ここでホームラン打てたら、俺と付き合え」
彼はそう耳打ちしてバッターボックスへ立った。
九回裏二死、走者は一塁
点差は一点差。
つまり、本塁打ならサヨナラ勝ち。
*******
彼は「一発で決めてくる」とカッコ良くキメた訳だ。
「もうダメだ」と思っていた私は、彼が救世主に見え、完全に惚れてしまった。
何と言うか、アレだ。
すごくカッコ良く見えたんだ。
とにかくカッコ良かった。
********
相手ピッチャーは県内でもトップクラスの剛腕で、こちらは未だ零封。
プロの選手並みのストレートは誰もカスリもしない。
そんなピッチャーの第一球は…ストレート!
打たせない所ではない。空振り三振させるつもりだ。
ベンチにも風切り音が聞こえてきそうな速度でミットへ飛び込む……が、違った。
キィン!!
金属バットにカスった音が響く。
彼は今の今までカスリもしなかったストレートにカスったのだ。
ベンチに希望の光が……射さなかった。
彼はバッターボックスで倒れている。
……自打球だ。
不運にも、カスった球は足の指に直撃。プロテクターを付けていたが、尋常ではない威力で彼は指を骨折してしまった。
*******
その後、代打が空振り三振。
試合には負け、私の夏はお仕舞い。
彼は担架で運ばれ、すぐに病院へ向かった。
「…ホームラン打てなかった。……ゴメン」
病院で彼は言った。
構わない。
ホームランは打てていたのだから。
スポンサーサイト
| Home |