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「里の人間にも自衛隊の噂は広がっています」
「あら、意外と早いのね」
「侵略者という噂は全くありません。鉄の車で買い物に来る外来人は吸血鬼が惚れた外来人とか」
「アハハ!アハハハハ!それ、いいわね。吸血鬼の惚れた人間!アハハハハ!」
「紫さま…」
「あら、ごめんなさい……さぁて、そろそろ2人だけじゃ寂しいでしょう。フフ、フフフ」


********

6月のある日 陸上自衛隊 青野ヶ原演習場

大地を震わすエンジン音を響かせ演習場へ進入する戦車、空を切り裂き演習場へ向かう対戦車ヘリコプター、砲口や弾頭を天空に向け待機する火砲群、緊張した面もちで出番を待つ普通科隊員。青野ヶ原演習場始まって以来の大規模演習だ。

そんな演習場の少し後方、開けた土地に戦車とトラックがその体を休めている。
「1尉、本管から連絡。『戦車中隊は前線に移動、防衛線を構築セヨ』」
「了解、全員搭乗!」
アイドリングしていた74式戦車のエンジンが唸りを上げ、黒い排気ガスを放出した。
「前進!」
独特のエンジン音を響かせ前進し、森の奥へと消えて行く。
エンジン音と履帯の振動で近くの木が震えていた。

*******

青野ヶ原演習場上空

AH-1Sが2機、UH-1が3機。
ベトナム戦争時代に開発された機体だが自衛隊では現役で使用されている。
「2尉、霧です」
青野ヶ原台地の手前に分厚い雲のように霧が広がっている。
こんな時期に霧とは珍しい。
パイロットの2等陸尉はそう思ったが黙った。
「大分濃いな…迂回出来るか?」
「無理です。青野全体を覆いつつあります」
霧はゆっくりと、しかし確実に青野ヶ原演習場を包んでいく。
まるで青野ヶ原台地が白い化け物に喰われるように。
「ダメだな。悪天候の為、訓練中止。八尾に戻る」
「了解」
「ランサー1から各機へ。天候不良の為訓練を中止する。機首を180度回頭、八尾経由で明野へ戻る」
『ランサー2了解』
『マルチ1了解』
エンジン音が一際唸りを上げ、ヘリは演習場を一周、弧を描きながら飛んでいく。
しかし
「3曹、霧が目の前だぞ」
「霧のが早い!普通じゃない!」
「くそっ!ランサー1霧に突入する!各機位置に―」
「2尉!レーダーが!」
後部座席の3曹が悲鳴のように叫んだ。
「どうした!?ブラックアウトか!?気を付けろ!!異常事態だ!こちらランサー1!青野ヶ原上空にて霧に突入す、現在視界ゼロ、レーダーが不調にて現在地が解らず!」
『……………』
「ランサー2!応答しろ!!ランサー2!」
『……………』

*******

自分たちの頭の上をヘリが飛んでいる。
『うっせえな、飛行ルート外れてんだよ』
『やけに低空だな。何かあったか?』

ヘッドセットに乗員たちの会話が流れる。
確かに自分たちの真上を飛んでいくヘリは、異常なまでに低空飛行をしている。
『1尉、霧が出てます。視界不良』
「了解。駒田、車間距離に注意しろ」
『………………』
無線に反応なし。
ザァザァとノイズを流しただけだ。
「ん?駒田、どうした?返事をしろ」
『………………』
『駒田車、反応なし』
「各車停止。ちょっと見てくる」
『今田車停止』
『大村車停止』
『……………』
『神室車停止』
戦車長が降りると後続の車両の乗員が顔を出す。
「駒田!駒田1曹!」
「1尉!神室です!大変です!」
「神室!駒田はどこだ!」
「わ、分かりません。気が付いたら…」
戦車がいない。
まるで最初からいなかったようにポッカリと空く戦車1両分の隙間。
「こいつは、いったい…」

*******

日本国 某所

「戦争には武器が必要よね」
「お言葉ですが紫様。これは武器ではなく兵器です。死人を出すおつもりですか?」
「戦争何だもの。侵略者は強大でないと団結力は得られないわ」
「………」

*******

幻想郷 紅魔館から少し離れた湖畔

今日も霧が濃い。
こっちに来てから毎日のように湖に霧が出ている。だが、今日は一段と濃い。
「(戦争らしい事なんてないじゃないか)」
田中士長はそう思った。
ここ幻想郷は冷戦状態にあると言ってもいい。
誰もが戦争を望んでいるが望んでいない。
妖怪が闊歩し、人間と共存している不思議な世界。

「田中さん」
田中後ろから声を掛けてきたのは妖怪の少女。
緑色の髪の毛に触角と明らかに人間ではない。
「あっちに変なのがいるよ。多分、田中さんの仲間じゃない?」
「ホントか!?すぐ行こう!」
89式小銃を持ち田中はリグルの案内する方向へ駆けた。

******

エンジンを切り森にその巨体を鎮座させる74式戦車。
「こちらは駒田車、大貫1尉応答ねがいます」
『………………』
「…ダメか」
周囲は森、そして視界不良の霧。
演習中にはぐれてしまった。
「1曹、とりあえず戻りましょう。視界が悪すぎますよ」
「仕方ないか。よし、履帯の後を頼りに戻るぞ」
その時。
「止まれ!誰か!」
聞き慣れない声がした。
「陸上自衛隊、第10師団、第10戦車大隊、第1中隊、駒田滋1等陸曹!」
「駒田1曹、こちらへ」
「まてよ。そっちこそ誰だ」
「…失礼。陸上自衛隊、第30普通科連隊、第5小隊、田中龍之介陸士長」
姿を現した声の主…田中を見て全員が驚いた。今は使われていない迷彩Ⅰ型だったのだから。
「士長、その格好は?」
「迷彩Ⅱ型は洗濯してましてね」
「予備はどうした?」
「その事を含めて説明します。全員こちらへ」
田中が戦車の乗員に降りるように促し、駒田たちは素直に従った。

******

「すまんが士長、意味が分からない」
田中は全部説明した。
東富士演習場で起きた事、ここが幻想郷と呼ばれる土地である事、帰りたくても帰れない事、幻想郷の住人達の事…etc.etc.
もちろん理解されないと分かっている。
「理解出来ないのは分かります。しかし、事実なんです」
田中が森の先を指さす。
「アソコに湖が見えますか?青野ヶ原にあんな湖無いでしょう。…全て事実なんです」
確かに木々の間から湖が少し見える。
若い隊員から血の気が引いていく。
「帰る方法は?」
「あることはあります。只、自分に強力な呪いが仕掛けられていて帰るに帰れないのです」
「…………そんなバカな」
「事実なんです」
「とにかく、士長は倉田2尉と一緒にいるんだな?案内してくれ。それから決める」
「はい。では湖の方に戦車を出して下さい」

*******

幻想郷のどこか 上空

爆音を響かせAH-1Sコブラがゆっくりと飛行する。
「こちらランサー2!誰か!応答してくれ!」
青野ヶ原上空で霧に突入し、抜けたかと思うと景色が一変していた。
少し前まで眼下には青野ヶ原台地が広がり、田んぼや家々が見えていたのだが、まるで違う場所になっていた。江戸時代のようだ。
「頼むよ。戦国自衛隊かよ」
「アホか!!滅多な事言うな!アイツ等全員死んでまうねんぞ」
全部座席の隊員が怒鳴った。
「3尉、あそこに手を振る人がいます」
確かに米粒大だが人がいる。
手を振っているが、何かこっちを呼んでいるようにも見える。
「あれは…神社か」
「降りますか?」
境内は少し広い。コブラ1機なら余裕だろう。
「緊急の場合は予告無しで着陸や。何かあったら俺が責任とったる」
「3尉カッケェ」
機体を神社へ向け、ゆっくりと高度と速度を落としていった。

*******

幻想郷 博麗神社

コブラはゆっくりと神社の境内に着陸する
ローターの生み出す凄まじい風圧で油断したら吹き飛ばされそうだ。
「スイマセン!ちょっと庭借りますね」
迷彩服を着た男2人がコブラから境内に降り立った。
「自衛隊の者なんですがね。ちょっと迷ったというか霧を抜けたらここに居たというか…ここはどこですかね?兵庫県なのは合ってる筈なんですが。もしかして加西超えて市川の方まで来てます?無線が壊れて―」
「待ちなさい。まずは名乗りなさいよ。話はそれから」
話していた男は申し訳なさそうに肩をすぼめて言った。
「陸上自衛隊、中部航空隊、第5対戦車ヘリコプター隊熊本武2等陸曹」
「同じく雉沼3尉」
「この博麗神社の巫女をしています、博麗霊夢です」
「文々。新聞の記者をしています、射命丸文です」
やはりというか、流石というか。
霊夢の隣には目を輝かせペンを握る少女がいる。
「な、なんや、それ」
「羽!?」
射命丸には黒い翼。
幻想郷なのだから鴉天狗がいても不思議ではない。だが、彼等がいた世界では鴉天狗は空想の生き物なのだ。
「あなた方は2週間程前に現れたジエータイの田中さんの仲間でしょう?」
目を輝かせながら射命丸が言った。
「文、黙ってなさいよ。とりあえず説明が先よ」
射命丸はつまらなさそうに口を尖らせ、メモ帳を閉じる。
それが合図だったのだろうか、霊夢が口を開いた。


……
…………

「という訳よ」
霊夢は彼等が別の世界に迷い込んでいること、そこは幻想郷であること、幻想郷は人間と妖怪が共存していること、他にも自衛官がいること、他の自衛官同様に何かしら呪われていることを説明した。
「……すまんがサッパリ分からん」
「でしょうね。まあいいわ、とりあえず紅魔館へ行きなさい。仲間がいるわ」
「場所は?」
「私が案内しましょう。取材させてくれるなら」
「案内言うてもコブラは復座や、3人は乗られん」
「一応、私は鴉天狗なんですから」
そう言うと射命丸は背中の羽を使いこなし、宙に浮く。
地上約15センチを維持しながら雉沼に近付き、口角を少し上げた。
「分かりましたか?」
「…あ、あぁ」

******

爆音を響かせコブラは博麗神社を後にした。
コブラが撒き散らした木の葉を掃除する霊夢だけが神社にいる。
「これで良かったんでしょ?」
霊夢の真後ろ
神社の賽銭箱に座り日傘を差す女性。八雲紫。
「流石ね。これで紅魔館は敵よ。重武装の歩兵、戦車、ヘリコプター……十分過ぎる脅威だわ」
「…アンタが何をしようと勝手だけどこれはダメね。今回はダメよ」
「あら?ダメなの?楽しいわよぉ大戦争は。美しい弾幕と鉄の雨が降るのはいつからしら」
「そう上手くいくかしら」
「? どういう」
紫の地面が弾けた。
霊夢の手には、9ミリ拳銃が握られ銃口から煙が立ち上る。
「……フ、フフ、…アハハハハ!」
霊夢と9ミリ拳銃、弾痕を順番に確認すると体をくの字に曲げて笑い出した。
しかし、大笑いする紫に動揺することなく霊夢は銃口を紫に向ける。
「最高よ霊夢。そうね敵は強大じゃないと楽しくないわよね。紅魔館、自衛隊、そして博麗霊夢…敵として申し分ないわ」
「さっさと帰りなさい。次は頭をぶっ飛ばすわよ」
「フフフ、美しい弾幕を楽しみにしているわ。じゃあね霊夢、次に会うのは敵同士ね」

……
紫が去り神社の境内には霊夢だけが残った。
足下に転がった薬莢を拾い上げ、茂みに投げ捨てた。
「…これで良かったのよ」
遠くでコブラのエンジンが響いている。
きっともうすぐ紅魔館に着く。
戦争になるかはそれから決まる、明日には結論が出るだろう。

湿気を含んだ不快な風が境内を抜けた。
天候が崩れそうだ、嵐が近いのかも知れない…
凄まじく不快な気分だった。
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