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目を覚ますと、そこはあの世ではなく病院だった。

********
「篠田君、神社で通り魔に刺されたんだよ」
果物ナイフでリンゴの皮を剥きながら私服姿の小野が言った。
目を覚まして10分後、警察から事情を訊かれたが何で神社に居たのか、誰に刺されたのかさっぱり覚えてなかった。
何か重要な事があったんだろうが、全然思い出せない。
因みに家族は着替えを取りに帰っている。
「淡路ちゃんが犯人を探し出して八つ裂きにするって言ってたよ」
奴ならやりかねない。
「後、出番が少な過ぎるって言ってたよ」
それは俺に言われても困る。
作者に言え。
「……あ、あの篠田君?」
「何だ?」
「えぇと、その…ね……ご、ごめん!用事があるから帰るね。ま、また来るから」
「え?あ、あぁ。気を付けてな」
何だ?
突然、帰ってしまった。
まぁ、いいや。用事とか言ってたし。
俺はリンゴを頬張りながら思案する。
「(まず、何で俺が神社に居たかだ…この糞暑いのにわざわざ神社に行ってんだ。飛騨に呼ばれたのか?)」
気付けばリンゴはなくなっていた。
「(何か重要な事を忘れているような…)」
神社に行った理由かどうか分からないが、一つ思い出せない。
何か…すごい重要な事。
…。
……。
………。
さっぱり分からん。
…寝よ。

******

寝ても思い出せなかった。

退院しても思い出せなかった。

日常生活を送っていても思い出せなかった。

むしろ、そんな事忘れていた。
相変わらず、飛騨や加西、姫路、小野とバカやっていた。

冬休みが目前に迫った12月のある日
「なぁ来年は受験だろ?勇太はどうすんだ?」
加西が言った。
夏場ロン毛だった彼は一学期の終業式に丸刈りで現れ、今も丸刈りだ。けっこう見た目が怖い。
「な~んも考えてねえや。飛騨は?」
「僕は勇太と一緒がいいな」
「小野は国立だろ?」
「無視だけはヤメテヨ!」
「私は…まだ考えてないや」
「へぇ、珍しいな」
そんな他愛ない会話をしていた。
来年は高三だ。受験、就職が待っている
「お参りしよう!!」
こんな事を言うのはいつも飛騨で、今回も飛騨だ。
「この近くに神社あるからさ、そこ行こう」
近くの神社というのは俺が中学の頃、部活帰りによく昼寝に使っていた神社だ。
無人なのだがよく整備されていて、寝やすかった。
「そこって…」
「あ……ごめん勇太。他意は、ないんだ」
「気にすんなよ。大分前の話だ」
俺が刺された場所でもある。

******

よく整備された参道。
俺が刺された時はマスコミと野次馬で溢れていた。
今は静かそのものだ。
「んでも、よく生きてたよな」
「奇跡だって医者が言ってたよ。発見が早かったから助かったんだとよ」
確かに奇跡だろう。
右脇腹を鋭利な刃物で刺され、刃は肺にまで達していた。
それで、生きてたのだから奇跡としか言いようがない。

事件の話はいいだろう。
大体覚えてないし。
さてと、俺たちは本殿の前にいた。
賽銭を入れ、拝む。
「(とりあえず、平穏無事に生きたい…と)」
はい、お仕舞い。
大体みんな拝み終わったようだ。
神社を出て俺と小野は左へ曲がる。
飛騨と加西は寄る場所があるとかで直進した。
神社の横は空き地がある。
懐かしいな。
中学時代よく通った道だ。

ふと見ると空き地の前に誰かいる。
黒い和服姿の少女。身長からして中学生ぐらいか。
黒く長い髪を風に靡かせ、空き地の方向を見ている。
…なんだろう。何か見たことあるような。
「篠田君…あの人、知ってる?」
「見たことあるような……ないような」
何かモヤモヤする…
どこで見たんだろう…まさか前世の記憶とかか!?まぁ、そんな事は無いがな。

少女がこちらを向いた。
目が合う。
…俺はこの女の子を知ってる。でも、誰だろう。
少女の出す雰囲気に圧倒されていた。
不思議な不可思議な複雑怪奇な雰囲気に完全に圧倒されていた。
声を出すのも忘れる程神々しい雰囲気に魅了され、その少女に見惚れていた。

少女は俺に向かって歩いてくる。
一歩、また一歩と距離が詰まり、おおよそ30センチまで距離が詰まる。
「あ、あの…どこかで会いましたか?」
ようやく声が出た。
小野もそうだが二人して少女に魅了されていた。今の今まで声を出す発想が片隅にもなかったんだ。
「……元気そうで安心した。じゃあな、勇太」
聞いた事のある声だった。
一体、どこで…ひどく懐かしい声な気がする。
少女は微笑すると回れ右をして離れようとしていた。
……誰だ?
突然、頭に白い閃光が走った。
フラッシュに似た閃光だ。
フラッシュの真ん中に人影が浮かぶ…見た事ある人影。どこか懐かしい人影。
「大蛇…姫子…?」
少女が止まった。
驚いた様子で振り向く。
フラッシュは、まだ続いていた。
そして、幾つかのフラッシュの後、俺の頭に電撃が走る。
そうだ!!完全に思い出した!
「姫子!姫子だ!!そうだよ!姫子だよ!!」
小野は「何のこっちゃ」と言わんばかりの目をしている。
「う、嘘だろ?どうして思い出したんだ?高天原の記憶を司る神に頼んだのに」
「知るかよ……ところで何してんだ」
「家を追い出された。…勇太とした事をお祖父様に話したら酷く怒られてな。勘当されてしまった」
姫子はとても清々しく言った。
「勇太…私は貴様の所為で家を勘当された。それもこれも私が貴様に惚れた所為だ。責任とれ」
姫子はニコニコしながら、そして頬を…いや、顔を耳まで真っ赤にしながら言った。
そういや、そうだった。
神社で告白されたんだった。
そう考えると途端に恥ずかしくなる、顔が熱い。
「ちょ、ちょっと待って」
ここに来て、小野が口を開く。
「黙って聞いてたけど、ちょっと横暴です。篠田君は何も悪い事してないのに責任とれとか」
「何だ香織?嫉妬か?」
ニヤニヤしながら姫子が言った。
煽っているというのが一番似合うだろう
「し、しししし、嫉妬だなんて!」
「妬ましいよな。でもな香織、コイツは回りくどい言い回しをしても気付かないぞ。直球勝負で言うしかない。私は知っているぞ?それは経験したからだ」
「………」
小野が頬を朱に染め、困ったような表情でこっちを見ている。
対する姫子は口角を上げ勝ち誇ったかのようだ。
「あ、ああああの!し、篠田君!」
壊れる寸前のプレーヤーのようだ。
小野の顔がどんどん赤くなっていく。
「ああああの、そ、そその、じじじじ実は…」
「お、おい。大丈夫か?急にどうしたんだよ」
そりゃ心配なるわ。
顔、真っ赤っかだぞ。むしろ赤黒いぞ。
「だ、大丈夫……あ、あの!」
小野が真っ赤な顔で真っ直ぐ俺を見る。
意を決したような顔だ。
「篠田君!わ、私は、私は………」
「どうしたんだ?大丈―」
「勇太、黙っていろ。乙女の勝負の時なんだ」
姫子がピシャリと遮った。
乙女の勝負ね…俺にはサッパリ分からんのだが。
「……篠田君、私はアナタの事が好きです。結婚を前提にお付き合いしてくれませんか?」
…………はい?
あれ?ナニコレ?デジャヴ?
「勇太、もちろん断るよな?勇太は私を嫁にすると言ったよな?」
そんな事言った!?
「私が今みたいに友達と話したり、一緒に帰ったり出来るのは篠田君のおかげ。篠田君が私にとって初めての友達…そして初恋の人。篠田君…初めての責任とってよ」
…え?何この展開。
「勇太」
「篠田君」
ジリジリと詰め寄る2人。
てか、どういう事?こんな展開聞いてないぞ。
「よう、我が息子。もちろん姫子を選ぶよな?なぁ?まさか、選ばないとか言う訳ないよな?」
抜き身の日本刀を輝かせ、現したのは姫子の父親。
「あ、あは、あはは…」
もう、笑うしか出来ない。
しかも、引きつった笑いだ。
「勇太」
「篠田君」
ヤメロ
二人してそんな目で見るな。
「早く選べ、ページ数が増えるぞ」
「メタ発言やめろや。後、これはインターネットで読むからページ数は関係ねえ」
「うるさい、いいから早く選べ」
「ぐ…」
選ばないと取って喰うと言いそうな目だ。
これ、ハッピーエンドじゃねえよ!
「とにかく選べ」
そう言いながら姫子が一歩近づいた。
ジッと俺を見つめる二つの黒い瞳は「私を選べ」と言っている。
口にせずとも分かる。
「い、今は選べない」
「え?」
「俺は姫子も、ましてや小野もそういう風に思ったことが無い。だから、どっちかと付き合うとか今は無理だ」
殺される。
自分の死を覚悟した。
だが、いつまで経っても姫子も勝利も殺しに来ない。
なんか「やっぱりな」みたいな顔をしている。
「なるほどな。勇太らしいと言えば、勇太らしいな」
「ごめんなさい。突然、こんな事言われても困るよね」
「分かった。私は、勇太に好きになってもらう所から始める。だから香織、どっちが勇太を落せるか勝負だ」
一瞬ポカンとなった小野だったが、理解したのか笑顔になった。
「分かりました。負けませんよ」
「勇太、明日から毎日、朝起こしてご飯を作ってやるぞ」
「ず、ずるいです!じゃあ、部屋の掃除に行ってもいいかな?」
…はぁ
明日から、相当疲れるぞ。
「じゃあ勇太にあーんして食べさせてやる!」
「私は口移しで」
盛り上がる女子を置いといて神社の本殿へ向かい、賽銭を入れる。
「どうか平穏無事に暮らせますように」
「そりゃ無理だ」
いつの間にか後ろに居た勝利が言った。
顎をしゃくり、鳥居の方角を示す。
どうやら、女子たちはまだ、譲らないようだ。
「はぁ…」
「モテる男は辛いな」
返答する気も起きない。
とりえず、心労で倒れそうだ。

こうして、姫子と俺は出会って別れて、もう一度出会った。
これでお話は終わるが、まだ終わらないだろう。
今までより濃い日常が待っているはずだ。
「勇太!喉が渇いた!甲羅を買って来い」
「自分で買って来い!」
慣れが戻って来たのだろう。
ドタバタも悪くない。
こんな日常もあっていいんじゃないか?
参道を歩いて来る姫子たちを見てそう思った。



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