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春の章 第二話「最初で最後」

2010年3月26日金曜日
13時42分 自宅

僕の身体は病院から家に無言の帰宅を果たした。
母親は大声で泣きわめき、父親は拳を震わせながら俯いている、扉の近くで弟は棒立ちになっている。
以上が家族の反応だ。
藍坂はまだ説明している、「これから通夜までは自由に過ごして下さい、外に出
ても構いませんが他人との接触は避けて下さい」
はっきり言って説明なんか耳には入っていない。今は家族にもう一度話しをした
いと思っていたからだ。
家の前が騒がしい、しかし何故か声は聞こえない、家族の声すら聞こえないのだ、しかし物音は聞こえる。
どうも死んでしまうと生きている者の声が聞こえないらしい。
父親が玄関の方に歩きだした、呼鈴がなったからだ。
僕は藍坂に質問をしてみる
「死人は声が聞こえないのかな?せめて家族の声だけでも聞きたいんだけど」
僕の質問に藍坂は淡々とした口調で言った
「アナタは聞こえないんですか?まぁ最初は聞こえなくても徐々に聞こえますよ。もし、聞こえないままなら言って下さい。」
ショック症状というやつだろうか…
僕は遺体の傍にいる母親の横に正座し、聞こえないだろうが謝り、お礼を述べた。ちょうど父親がスーツ姿の知らない男と入ってきた。入れ替わる様に弟は自分
の部屋に戻ってしまった。
男は棺桶のサイズや祭壇の大きさの話しをしている、葬儀屋らしい。微かに声が聞こえた、藍坂に報告しようとしたが熱心に書類を読んでいるので今言わなくて
もいいだろうと解釈した僕は外の喧騒に耳を傾けた。
少し聞こえにくいがなんとなく分かった。
「クスノキユウイチ君17歳は…………の運転する車に………間もなく病院で死亡が確認されました。………容疑者は基準値の………アルコール反応があり、飲酒運転の疑いで…………」
女の人の声だ、どうも僕が死んだことはニュースになっているみたいだ。
外に出る気はしなかったのでそのまま通夜まで家にいることにした。
目の前には書類を読むのを止めてアクセサリーをいじっている藍坂がいた。
「葬儀が終わったらどうするの?」
そういえば訊いていなかっなと思い訊いてみる
「?…さっき言いませんでした?」
しまった…全く聞いていなかった
「ごめん…考え事してた…もう一度頼むよ」
一瞬面倒くさそうな顔をした藍坂だったが、すぐに仕事の顔に戻り
「命日…つまり今日から初七日までに閻魔大王の裁きを受けます、次に四十九日法要の日に冥界に逝くことが出来ます。」
今度は聞き逃すまいとしっかりと聞く
「閻魔大王の裁きで冥界で行う仕事と期間が決まります、つまり生前善行をすると楽で短期間の仕事、悪行をすると辛くて長期間仕事をする事になります。」
ふと疑問に思った、案内人はどっちなんだろう?
「案内人は善行なのか?」
よく訊かれるのだろう、慣れた感じで話す。
「案内人は志願制です、善人でも悪人でもなれますが生前の罪により勤務期間が決まり、配属後は期間延長も出来ます…案内人に興味がお有りで?」
藍坂は微笑を浮かべながら言っている。
僕は高速で首を横に降った。
「冗談ですよ、まあ興味があるのなら言って下さいね」
藍坂とそんな話しをしてかなりリラックスしていたが家はかなり騒がしくなっている。なにしろ1人死んだのだから騒がしくて当然だが。

「では、祭壇はこの部屋に運ばさせて頂きます」
葬儀屋との話し合いは終わったらしい
「間もなく車が来ます、それに棺(ひつぎ)が載っていますから遺体は棺に入れさせて頂きます」
どうやら、通夜と葬儀は家で執り行うようだ。
「早いな、もう通夜を行うのか」
僕の独り言に、藍坂が答えた
「おそらく、友引を避けたのでしょう。なにしろ明後日は友引です」
小さいのによく知っているな…友引なんて言葉は小学生は知らないだろうに。
「よく知ってるなぁ 小学生にしては物知りだね」
ムッとこっちを睨んでいる
何か悪い事を言ったのだろうか
「私は小学生ではありませよ!享年は14歳、中学生です!」
…怒られた そうか、コンプレックスだったのか、すまないことをしたな…
藍坂はまだ喋る
「それに私が死んだのは今よりずいぶん前です!アナタより年上なんですよ! 私だってあの時好き嫌いせずにしていたらこんな体型には…」
ヤバい、怒りから哀しみになってる。えらい事になった。
「すいません…取り乱しました…通夜は18時からですね…」
蚊の鳴くような声とはまさにこの事だろう、すごい小さい声だ。とりあえず謝らないと。
「ごめん、そんなつもりじゃ…」
反応なし。
反応が無いのが一番辛い…そうこうしてる間に部屋には祭壇が組まれ、遺体は棺に入れられた。藍坂も落ち着きを取り戻し説明している。
「通夜が始まったら、アナタは棺の北側に座って下さい。どんな座り方でも構いません。その間喋らない約束をして下さい」
淡々と説明を続ける藍坂は少し怖かった。
「通夜が終わったらどうするんですか?」
先の一件以来藍坂に敬語で話さないといけない気がする。
「通夜が終わったら葬儀まで自由です」
「自由って、例えば何か悪い事をしたらどうなるんですか?」
こっちの目を見ずにやはり淡々と言った。
「死後の罪はとても重いです、例えそれが善行でも魂が現世(うつしよ)に介入することは厳禁なので。良くても賽の河原で未来永劫石積みですね」
恐ろしい…
「わ…悪かったら?」
「?…何で動揺してるんですか?何かするつもりですか?」
僕は高速で首を横に振る。
首をかしげながら続けた。
「悪かった場合は魂を消滅させられます」
「転生は出来ないんですか?」
僕の言葉に少し鬱陶しそうに言う。
「出来ません、あと何で敬語なんですか?少し鬱陶しいですよ」
「はい、以後気をつけます」
時計は18時少し過ぎたぐらいを指している。
僕は藍坂に言われた通り棺桶の北側に座り通夜の開始を待った。
そして藍坂は祭壇の南側に立ち、何か書いている。
そして僕の最初で最後の通夜が始まった━━
この空気はどうも好きにはなれない。

通夜は滞りなく進み終了した、友人や教師等が参列し泣いている同級生を見ると
いたたまれ無くなったが、どうしようも無いのでとりあえず謝った、脳内で。
「お疲れさまでした、では葬儀まで自由に過ごして下さい。葬儀は10時からですので…では失礼します」
明日の事を連絡すると藍坂は上に報告すると言ってどこかに行ってしまった。
こうして1日目は終了した、明日はいよいよ葬儀で三途の河を渡らなければならない。

2010年 3月27日 土曜日
9時16分 自宅

「葬儀の間も通夜と同様にして下さい」
藍坂は仕事の顔をしている。
「わかった」
了解の意思を伝えると、藍坂は書類とにらめっこし始めた。話しかけても無駄であることを諭した僕は参列者の顔ぶれを見ることにした。
小中高の学校の友人からバイト先の同僚、近所の人もいる。
…ダメだ、これ以上居たら泣いてしまう…

仏間に戻ると家族を含めたけっこうな人数がいた、葬儀特有の何とも言えない重い空気が漂う、棺の傍らに座ろうとすると藍坂が近づいてきた。
「昨日の通夜もそうですが今日の葬儀も参列者が多いです、17歳にしては多い方ですね」
喋ろうとしたが藍坂が遮り
「喋らなくて構いません。アナタは沢山の人々に愛され慕われた人です、その人々を悲しませる事になりましたがそれは運命(さだめ)です、死は新しい生への旅立ちなんですから」
そうか…死は新しい生への旅立ちか
「大丈夫ですよアナタならすぐに転生できます、だから下を向かずに前を向いて下さいね」
おそらく藍坂の精一杯の笑顔だろう、僕は安心したのか思わず口元が緩む。
仕事の顔に戻った藍坂は少し強めの口調で
「第四二管区 第一小隊 小隊長 藍坂雛の銘のもとに只今より俗名『クスノキ ユウイチ』最後の務めである告別式を執り行う、最後まで務めを全うするように」
軍隊の訓示のようだ、要するに「最後なんだから後悔の無いように」ってところ
だろう…
了解の意思を伝え棺の傍に座った。
定刻通り葬儀は始まり昼前には終わった。残すは斎場に向かうだけになった。
棺を父、弟、親類で霊柩車まで運ぶ。父が参列者に挨拶をする
「皆様、本日はユウイチの告別式にご参列頂きありがとうございます。沢山の方
々に見送ってもらいユウイチは幸せ者であります━━━」
その後は聞けなかった、藍坂が近づいてきた
「最後のお務めご苦労様でした。今から冥界へと出発します。」
半泣の僕は声にならなかったので頷いた
「最後まで目を離してはいけませんよ、アナタを慕ってくれた人々に居たことを
証明するものなんですから。目を離しては失礼でしょ?」
霊柩車はクラクションを大きく長く鳴らした。人々の泣き声が響く、霊柩車はゆっくりと出発した。
「ユウイチー!」
同級生の声が響く、その声は霊柩車が見えなくなるまで響き続けた…
「素晴らしい友達ですね…アナタはホントに幸せ者です。」
「ありがと」
冥界へと歩き始めた藍坂の後ろを僕が歩く
最初で最後の務めが終わり僕は閻魔大王の裁きを受ける為に冥界へと出発した。

第二話 終
第三話へ続く

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