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朝、警察署の前を自転車で通り過ぎ、直線距離にして自宅から3.4キロメートル離れた高校へ急いだ。
思えば朝から全くと言ったいいぐらいツいていない。
起こしにきた半ギレの妹に頭を蹴飛ばされ、その拍子に首を痛めた。
階段を下りていたら足を滑らせ転がり落ち尻を強打した。
アホみたいな朝だ。
しかも…
「この自転車君の?防犯ナンバー見せてもらえる?」
全くもって最悪である

……と
原稿用紙にそこまで書いてペンを置いた。
ごく普通の高校のごく普通の図書室。
奥行き20メートル、幅10メートル、高さ2メートル半。少し小さいぐらいか…
夕闇が迫るこの部屋にいるのは私ともう2人…もしかしたら書棚の奥にいるかも知れないがどうでもいい。

私は図書委員だ。
それこそどうでもいいんだが、とにかく私は図書委員なのだ。
入り口から入ってすぐ右側のカウンターに座して動かず。昼休みと放課後、ずっと小説を書いている。
不人気極まりないこの図書室は利用者が少ないのが悩みの種だそうだ。先輩が言っていた。
私としては人が少なくて静かだから小説を書くにはもってこいの場所で気に入っているのだが…人が増えたらどうしようか…ありもしない怪談話でも作ってホラースポットにしてしまおうか。
まぁ人が増えてから考えよう。今は小説大賞応募作を書く方が先決だ。

もう一度ペンを取り、続きを書こうとした時だ。
「あの、スイマセン」

……油断していた。
普段、図書室に来る人間自体が異様であるというのに貸出など頭の片隅にも、というか貸出出来るというシステムさえ完全に抜け落ちていた。
しかもカウンターの上に原稿用紙と設定を書き綴ったノートを広げ、これでは読んで下さいといわんばかりだ。
「コレ、借りたいんですけど」
分厚いハードカバーの小説を持つ男子生徒は言った。
我が校は上着の胸ポケットに学年を示す星のバッジを付ける事になっている。
一年生なら星1つ、二年生なら星2つといった具合だ。
ちなみに私は2つ。目の前の男子生徒は…1つか。
大丈夫だ。動揺しなければいい。
「自分の貸出カードに書名と書籍番号と日付書いて…カードは貸出中の棚へ。返却期限は一週間後」
完璧だ。
一切噛まずに言えた。
後は原稿用紙たちをスルーしてくれれば…
「えぇと。書名と書籍番ご……」
男子生徒の手が止まった。
何かを見つけたような感じだ。
「あの…これ、もしかして小説ですか?」
マズい!
バレた!
「先輩が書かれたんですか!?」
男子生徒は言い終わってから大声を出した事に気付いたのか焦った表情で肩をすくめた。若干ムカつく。
「読ませてもらえますか?」
小声で男子生徒が言った。
回答は勿論NO。
見ず知らずの人間に見せられない。これは小説大賞に投稿するモンだ。
「お願いします。小説家になりたいんです」
NOだ。
それ以前に私が小説を書いている事実を知られた以上生かしておく訳にはいかない。
声帯を切除して声を無くすか、それはそれは恐ろしい方法で記憶を抹消しないといけない。
どうしようか…
駿河問で背骨をへし折ればいいだろうか…それとも釜茹でかな…それとも……
「どうすれば読ませてもらえますか?」
……下手に出たか。
最近の若者にしてはどうして良い心掛けじゃないか。うむ。
"どうすれば読ませてもらえるか"
つまり"読ませてもらえるなら何でもする"という意味と捉えて差し支えなさそうだ。
ならば

「今までに見た、聞いた、触った、読んだ…その他全ての記憶を抹消するなら読んでもいい」
つまり
記憶中枢にある記憶全てを完全消去するなら読んでもいい、但し、読める物ならな…という訳だ。
我ながら良い考えだ。
さぁ、どうする?
「じゃあ読ませてもらいますね?」
男子生徒はカウンターの原稿用紙を集めて黙読し始めた。
オイオイ
どうなってるんだよ。
記憶全てを無くしてるなら文字を理解できないだろ。

だがここは図書室だ。
無闇に騒ぐ事が出来ない。
故に奪還もできないのだ。
羞恥プレイもいいところだ。今すぐこの男子生徒に地獄突きしてやりたい。
「……」
黙々と私の小説を読む男子生徒。
「………」
読み終わるのひたすら待つ私。

とはいえ、まだ途中だから読み終わるのに大して時間は掛からない筈だ。
だが私には一時間か二時間かはたまた二十四時間に思えた。

******

「…先輩」
読み終えたか…
あぁ早く帰ろう
今日の図書室は閉店だ。
「…僕にはこれを記憶から抹消する事は出来ません」
この男子生徒、ついに頭をやっちまったか?
「先輩、お願いします」
男子生徒は一歩下がって腰を90度に折り曲げ…詰まるところ深々とお辞儀をして言った。
「僕を弟子にしてください!」
……どうやら本格的に頭が吹っ飛んでしまったようだ。
私ではどうにも出来ない。
近所に精神科の病院があるから行ってくればいい。
「弟子じゃなくてもいいです。先輩の小説が読みたいんです!!」
…なんで?
「惚れました!先輩の小説に惚れました!」
…コイツ頭おかしいんじゃないの?
惚れた?
私の小説に"惚れた"
素人小説に惚れるなんて有り得ない。
こんなハードカバーの小説を読むぐらいだからマトモかと思えば違ったらしい。
こんな文章を読んで面白いだの言う奴の気が知れる。
「先輩の小説は面白いですよ。もって読ませて下さい」
…気が付けば図書室には私と頭のおかしい男子生徒だけになっている。
きっとコイツが騒ぐからみんな帰ったんだろう。
図書室で騒ぐとは何事か。
「どうすればもっと読ませてもらえますか?」
"どうすればもっと読ませてもらえる"
何で読ませる必要がある……ん?というか私はどうして頑なに読ませないようにしていたんだ?
この男子生徒は私の小説を読んで
面白いと言ってもらえた。
小説に惚れたと言ってもらえた。
もしかして、喜ぶべきじゃないのか?
……恥ずかしがったからか?
小説大賞に応募するのに?
いや、きっと"面白い訳がない""つまらないに決まっている"という考えが私の心のどこかにあったんだろう。
そんな"つまらない"小説を読んでもらうのは"恥ずかしい"って事だろう。きっと。
「先輩?どうしたんですか?」
「何でもない…それよりもっと読みたい?」
もっと評価してほしい
好評でも不評でもなんでもいい
もっと感想が聞きたい
否定されても肯定されてもいい
もっと
もっと読んで欲しい
「は、はい。もちろん読みたいです」
でも知らない輩に見せるのは嫌だ。
知らない連中に私の小説を読んでもらいたくない。
「そう…だったら」


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