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なんで?
どうして誰も止めてくれないの。
誰か…助けて……!

*********

地下鉄は『朽酒』という駅で停まった。
俺の住んでいた家から少し離れた場所だ。
「行きましょう」
改札で案内員証(要するに身分証)を見せ、長めの階段を登り地上へ出ると……
『只今、当駅で発生致しました人身事故の現場検証を行っております。運転再開まで今暫くお待ち下さい』
『貨物に飛んで、巻き込まれて…そう、ミンチ。うん、とりあえず免許あったから親御さんに電話して。えっとね番号は――』
『駅員さ~ん!こっちこっち!気分悪いってよ!!』
ここは…朽酒駅の改札前だ。
きっと俺たちが見える人がいるなら湧いて出たように見えた筈だ。
そんな人がいるか疑問だが。
いや、そんな事より…
会社や学校に電話する人。
電光掲示板を呆然と眺める人。
駅員に詰め寄る人。etc.etc.
「大混乱だ」
「遺体回収に手間取ったんでしょ。貨物電車で挽き肉だから電車の下にもあるんでしょ部品が」
部品って…そんな"モノ"みたいに。
「いました…あそこ」
藍坂が改札横のコンビニを指差した。
入り口の柱にもたれて座る人が見える。
「確認に向かいます。祐一、来なさい」
「はい」

******

『只今、当駅で発生致しました人身事故の影響で全線で運転を見合わせております。運転再開までもうしばらくお待ち下さい』
まるで叫ぶかのように拡声器で状況を話す駅員の横に力無く座り込む女の人。
明らかに他の人とは違っている。
いわゆる幽霊のように足が無いとか輪郭線がぼんやりしているとかじゃなくて何かが決定的に違う。
「梨本さんですか?」
藍坂が訊くと彼女は顔をゆっくりと顔を上げた。
そしてまた俯く。
「初めまして。あの世からお迎えに参りました、藍坂雛と―」
「嘘よ」
「嘘ではありませんよ。アナタは今から裁判を受けに行くんです。」
「嘘よ!嘘嘘嘘嘘!!!せっかく電車に飛び込んだのに!…気が付いたらここにいて体中痛いだけでちゃんと生きてる」
"せっかく"?
"せっかく、電車に飛び込んだ"?
意味が分からない。何を言っているんだ?
「アハハハハハ!!聞いた?『生きてる』だって!『ちゃんと生きてる』だって!」
体をくの字に曲げて笹原が笑う。
「笹原さん、やめさない」
「す、すいません。でも…」
笑うのを必死に我慢しているのかクックックッと笑った。
「生きてるじゃない!足もあるし、痛みもある!」
「じゃあ何故血が出てないの?救急隊は何故アナタを病院へ運ばないの?誰もアナタに気が付いてないのは何故?」
完全に相手を追い詰めに掛かった笹原は満面の笑みで問い詰める。
怖いぐらい笑顔だ。
「笹原さん止めなさい…残念ながら梨本さん。アナタは死にました。自殺という非常に残念な死に方で」
小さい子供に言い聞かせるように優しく藍坂が言う。
さっきまでヒステリックになりかけていた梨本の表情が変わる。なんと言うかショックを受けたような表情だ。
「…嘘よ…」
「いいえ。貨物電車に飛び込み、少し早いタイミングで飛び込んだ為車体下に巻き込まれ即死しました。」
「……」
梨本はまた俯いてしまった。
ようやく理解したんだろう。自分のした事の重大さが。
「痛かったんでしょう?辛かったんでしょう?でもね…死で逃げるのは出来ないの。祐一!」
「は、はい!」
突然呼ぶなよ… 絶対呼ぶタイミングじゃないよ。
「浄霊しなさい。大丈夫、教本通りすればいいですから」
教本通りって言われてもな…
何だかんだで教本はちゃんと読んでない…
「浄霊具取扱基礎教本 初等用」「浄霊具取扱応用教本 初等用」は字ばっかりでパラパラと捲っただけだ。もちろん中等用、高等用もあったが読んですらない。
まぁ仕方ない。基本は多少勉強したから何とかなるか?
ベルトの浄霊具鞘(革製の支給品)か鎌の形をした浄霊具を取り出す。
柄から刃まで真っ黒でやたらと重い。
「では、梨本さん。あの世へ行く準備をします。今のままではあの世は行けませんからね…祐一、やりなさい」
「はい……失礼します」
刃を対象の頸椎に向け、振り下ろす…と教本にはあった。頸椎に魂の緒があるそうだ。
痛かったら……ゴメンなさい。

一思いに鎌を振り下ろした。

******

結論から言えばまぁ成功。
しかし梨本はまだ自らの死を理解出来ないでいる。
「ねぇホントに死んだの?」
「死んだって言ってただろ?それに俺たちが見えるなら霊能者か死人だけだ」
「祐一」
藍坂が呼んでいる。
手招きをして呼んでいる。
何か嫌な予感がする。
「梨本さんに死を理解させなさい」
ホラ、何か面倒な事言われただろ。
何となくそんな気がしたんだよ。
「何か事情があるようですが構ってる暇はありませんし手っ取り早く理解させて裁判所に行きましょう」
そんな事行ってもなぁ…
俺はどうして自分の死を理解して受け入れた?

『知りたいんだろ?どうなったか。百聞は一見に如かずって言うしな』

……あぁそうだ。自分が事故る瞬間の映像を見たんだ。
でもあれはどうやって?
桐山の特殊能力か何かか?
教本にはそんな特殊能力あるなんて書いてなかったし…そうだ。
「梨本さんちょっといいか?」
「なによ」
「こっちへ」
俺と梨本は駅の事務所へ向かった。
扉は開放状態だ。不用心極まりない。
…あった
監視カメラのモニターだ。
「ちょっと…まさか」
「事故の瞬間の映像を見てもらう。いくら俺たちが言っても理解出来ないのはよく分かる。俺だってそうだったし」
本屋でバイトしているときの監視カメラと同じ型で良かった。
コンソールを叩きその瞬間をモニターに映し出す。
警察が見ていたのかすぐに映像は出てきた。

**朽酒駅1番ホーム最東端の監視カメラ**

ホームには早朝だからかチラホラとしか人がいない。
多分そうだからだろう梨本をすぐに見つけた。
フラフラとホーム端の柵近くを歩いている。

……
しばらくしてすぐ近くの電光掲示板が光った。
掲示板の左端には『通過』と書かれ真ん中に『電車がまいります』と点滅している。
梨本はフラフラと歩き、柵の真横…つまりは電車を撮影するような人ぐらいしかいない場所で立ち止まった。

次の瞬間に梨本は画面から居なくなった。
ちょうど画面からフレームアウトしたんだろう…そして貨物電車がホームへ滑り込みしばらくして停車する。
駅員が集まりだし騒がしくなるホーム……もういいだろう。
再生モードからライブモードに切り替え梨本を見ると、うずくまっている。
「お、おい」
「死んだね…あれは死んだね…」
譫言のように梨本は言った。
「死にたくなかった…死にたくなかったのに!」
カッと目を見開き、まるで幽鬼のように話す。
怖いなぁ。悪霊じゃないよな?
「アイツが一言『ゴメンナサイ』って言えば済んだのに。死なずに済んだのに」
死なずに済んだって…自分が選んだんだろ…
自分で死を選んで人の所為にするのか…
やだな…何かやだ…
まてよ?浄霊したのに怨みを持ってんのは不味いんじゃなかった?
「一回落ち着いて…な?」
「…この怨みを晴らさないと死にきれないよ」
「どうすれば晴れる?」
「アイツに謝ってもらえれば…」
「ハァ…分かった。隊長に相談する」
俺たちは駅事務所を後にした。
駅は少しずつ混み出し、少しずつ騒がしさが増し、ほんの少しずつ落ち着きを取り戻していた。
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