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昨日、つまり案内人になって3日目、監視対象になってから2日目の事だ。
昼過ぎぐらいから体が焼けるように熱くなり寝込んでしまった。
後でわかったが、ちょうど俺が荼毘に付された時だそうだ。
……これで俺は正真正銘死んでしまったという訳だ。

*******************

今日、つまり案内人になって4日目だ。
制服に着替えた俺は待機所に行ってみた。
昨日は昼から居なかったし、何より隊長…藍坂と笹原の仲が野球で言うとこの阪神ファンと巨人ファン並みに険悪だからだ。

待機所へと続く扉を少し開け中を見る…向かい合わせで2列に並ぶ机の手前側が俺の所属する第一分隊だ。
…藍坂はいる。笹原は…
「何をしているの?」
「いや、昨日うちの隊長と笹原との相性が悪かったから今日は……って!笹原!」
「おはようございます」
「お、おはよう」
「で、私と藍坂さんがどんなケンカするか楽しみで見ていたと」
言葉の1つ1つに氷でも付いているんじゃないかと誤認するほどに冷たいセリフを笹原は俺に言った。
ニュアンスが違うだけで俺が悪いみたいじゃないか。
「ケンカなんてしないから。昨日、アナタが倒れた後『監視対象の異変を見逃すとは何事か!!』って上司にたんまり怒られたし」
上司の口調を真似ているんだろう、口を尖らせ低めのトーンで言った。
さっきの氷のようなセリフから今度は物真似だ、ギャップありすぎるだろう。うっかり吹きかけたぞ。
「だから…これからはアナタから目を離しません……」
頬を朱に染め、上目遣いで笹原が言った。
……反則だ
何なんだ。怒ってると思ったら機嫌よく物真似したり急に色っぽくなったり。
一瞬ドキッとしちまったじゃねえか。
「…プッ。アハハハ!顔真っ赤!アハハハ!」
「こ、こいつ!」
「だって!アハハハ!」
笹原は涙を流して笑い転げている。
そんなにツボだったのかよ。
「…何をそんなに騒いでいるのです。入るなら早く入りなさい」
言葉の1つ1つが鋭利な刃物のような言い方、間違いなく……ほら、藍坂だ。
待機所の扉はいつの間にか開いていた。
…藍坂が開けたからだがいつからだろう
「いつから聴いて?」
「『これからはアナタから目を離しません(棒』の辺りです」
…棒読みだとひっでぇな。
何かイライラする。
なるほどさっきのはアレだ、笹原がやったからだ。
その時、ほのぼのした空気は破るように廊下に設置されたスピーカーから『ザー』とノイズが流れた。
途端に空気が緊張する。俺には何のことだかさっぱり分からないが、とりあえず何かあるらしい。
『中央総司令本部より四二管区へ、スクランブル発令。場所は「ハの25、梨本京子19歳」現在死後1時間、詳細は不明、至急出動せよ。繰り返す―』
スピーカーは同じ内容を繰り返している。ふむ、つまりは死人が出たから案内して来いってことらしい。
でも何でスクランブル?死人がいつ出るかは分かってるんじゃないのか?
「第1分隊スクランブル!祐一、浄霊具を持って門へ集合!1分で用意しなさい!!」
藍坂が言った。
「はい、了解」
「私も同行します」
笹原が言った。
多分俺を監視しないといけないからだろう。
「……1分で用意しなさい」
渋々といった感じで藍坂が言った。
治安維持課と死霊案内課は仕事が真逆の組織だそうだ。
だから元来仲が悪い。
それは今でもそうらしく、例えば治安維持課の活躍が死霊案内課の耳に入れば途端にみんな機嫌が悪くなってしまう程らしい。
だから、藍坂は渋々…仕事だから仕方無しといった感じだったのだ。
「直ぐに除霊具を持ってきます」
そう言うと笹原は待機所へ走った。

******

俺は浄霊具をベルトに挿しているから取りに戻る必要もなく、普通に門へ向かった。
「よう、楠。どうした?一緒に鍛錬するか?」
樫山だ。
筋トレをしていたのか、上半身は裸で上着は手に持っている。
外に居たからスクランブルに気が付かなかったんだろう。…外にもスピーカー付ければいいのに…
「スクランブルがどうとかで何か急ぎです」
「スクランブル!?ヤバいな。直ぐに待機所に戻るわ」
樫山はそう言うと隊舎へ向かった。
ヤバい?何かあるんだろうか?
ここの人達は説明しないなぁ。
「祐一!早くしなさい」
藍坂が呼んでいる。
いつの間に抜かされたんだ。
まぁいいや、とりあえず門へと向かおう。

*******

門に集合した俺達はとにかく急ぐらしく地下鉄の駅まで走った。
何でそんなに急ぐかは地下鉄で教えてもらえるそうだ。

俺はそこまで体力に自信のある方じゃない。
中学生の頃はバレーボールをしていたが高校で帰宅部になり、体力はがた落ちである。
笹原が体力があるのは大体予想できた。だが…
「藍坂さん早く!直通特急がちょうど来るから!!」
「分かって…ます……」
意外な事に藍坂は足が遅かった。
まぁ見た目が小学生なのでそんなに速くはないと思っていたが想像以上だ。
このままじゃ特急が行ってしまう。
……仕方あるまい…あの手しかない…
「隊長、おんぶします」
「へ!?」
立ち止まってゼイゼイ言う藍坂を少し待ちもう一度言った。
「おんぶ」
「…おんぶ!?な、何をバカな……あ、でも電車……仕方ありませんね。このままじゃ乗れませんし……」
藍坂の前で腰を落とすと背中に予想より随分軽い重さが加わった。
昔、妹もこうやっておんぶしたものだ。
懐かしいなぁ…『お尻を触るな!!』ってよく怒られ……しまった!
「祐一、急ぎなさい…申し訳ないですけど駅までお願いします」
もう後戻りは出来ないぞ。
なんてこった。だが仕方あるまい、藍坂もそれを承知でおんぶされているんだ。
せめて、太ももを支えるしかない!
許せ!

「ヒッ!?……祐一、後で覚えておきなさい。仕事が終わったらお仕置きです」
俺は仕事が長引けばいいとか思いながら駅へ走った。
途中、藍坂が揺れる度に変な声あげたりさ…マジで死にたくなった。いやまぁ死んでんだけどね。

*******

『間もなく、直通特急…挽糊(ヒキコ)行きが参ります。この電車の停車駅は葦瓜(アシウリ)、朽酒(クチサケ)です。尚、賽河原、三途川には停車致しませんのでご注意下さい』
駅のホームへ着くとちょうど電車が来た。
藍坂を背負い全力疾走したものだからヘトヘトだ。
少し休まないとダメだ。足が動かないよ。
「さすがです祐一。おかげで間に合いました…………」
「へ?…な、何か?……言いました?」
「何もありません!ホラ、行きますよ」
何だよ。
こっちは息上がってんのに。
…とか、何とかやってたら地下鉄が轟音を放ちながらプラットフォームに滑り込んできた。
一両編成の古臭い車両はブレーキをキィキィ鳴らし目の前で停まった。
「行きましょう。時間はありませんからね」
時間がない…
どうしてだ?
樫山は「ヤバい」と言っていた。
何故だ?
「隊長、樫山さんはスクランブルはヤバいと言っていました。何故ですか?そもそもスクランブルって何なんですか?」
車内に入り席に座った俺は思い切って訊いてみた。
教えてもらえる事は分かっていたが気になって仕方ないんだ。
「冥府は人の死ぬ場所や時間が分かります。それに必要なら死に方や時間も操作出来ますがイレギュラーがあります」
イレギュラー?
「はい、事故や病気はそういう運命なのでイレギュラーではありません。ですが…自殺は違います」
…自殺?
じゃあスクランブルってのは…
「自殺ってこと?」
「はい」
「自殺はね」
向かい側の座席に座っている笹原が言った。
少し俯き気味に…表情がよく分からないな。
「事故や病気と違って自らその命を断ち切るから予測が出来ないの。それに生きたくても生きられなかった人達が大半の冥界だと自殺は嫌われる…」


沈黙
空気重いなあ
『次の停車駅は葦瓜、葦瓜です』
地下鉄は目的地へ走る。
俺はまだこの仕事の辛さを理解していなかった。
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