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『案内だけが仕事とは暢気な仕事もあったもの。やれば分かるさこの辛さ。彼岸良いとこ一度はおいで、案内しましょう最期まで』

酒を呷りまくる姫野が真っ赤な顔で歌っている。
それを樫山が囃し立て、歓迎会の夜は更けていった。

*******************
「…ち……ういち……」
……覚醒しきっていない頭に音声が流れ込んでくる。
どこかで聞いた…
誰だ…
『お兄ちゃん』
うぇ!?
『お兄ちゃん、朝だよぅ。起きなよぉ』
あぁ、なんだ。
妹か。そうだ、学校に行かないとな。
……
あれ?


「祐一!」
…目の前にいるのは藍坂だ。
うん、間違いなく藍坂だ、妹ではない。
「こんな所で寝たら風邪をひきますよ」
時刻は朝の6時50分。
あぁ、思い出した。
歓迎会で一晩中騒いだ姫野と樫山に付き合わされ待機所の机に突っ伏して寝たのは午前3時。
つまり、姫野たちは5時過ぎから3時ごろまでおよそ10時間騒いでいた。
眠くて仕方ない。
ちなみに姫野は一升瓶を抱き締めて笑顔で睡眠中である、樫山はいない。
「………?」
「どうしました?」
怪訝な顔をする藍坂。
「今、妹に起こされる夢をみて…」
「妹…」
「でも、あんな起こされ方された記憶ないんだけどな?おかしいな?」
「……あぁ、そう言えば言ってないですね」
一人納得する藍坂。
納得されてもなぁ…
「魂と肉体の繋がりはどうしても断ち切れないんです。きっと妹さんがアナタの亡骸に話しかけていたんでしょう」
「それで妹の声が聞こえたと」
「そうです。寝ている時に多いみたいですけどね……さて、今日は私の隊は非番です。浄霊具の使い方、冥界云々を勉強しますよ」
感傷に浸る隙はナシ
ドサッと机に置かれる山積みの本…
『冥府史』『黄泉記』『よくわかる!冥界』『冥界と天界』『冥界とは』…etc.etc.
本屋でバイトしてたけどこんな本知らない。
出版社は冥府書房、冥界書店、あの世出版…etc.etc.
聞いた事ない…もしかしてこっちの世界の出版社か?
「これは?」
山積みの本から一冊手にとる。
「『萌えでわかる 天国と地獄』」
反応し辛い…
「そ、それは姫野さんが買ってきてた本です!私のではありません!」
うん、どうでもいいな
もう一冊取ってみよう。
「『地獄の一丁目美味い物巡り』…グルメ本?」
「うっ…それは今度の休みに行こうと思って買ってたガイドブック…」
表紙にゴシック体で『激辛特集!!灼熱火焔地獄の美味しいお店!』と書いてある……普通のガイドブックだな。
あの世でも旅行とかあるんだろうか…
何か生きている時とさほど差が無いような気がする。
「とりあえず、これを読んでおきなさい」
そう言って藍坂が渡してきたのは『あの世の歩き方』と書かれた本だ。
文庫サイズでそこまで分厚くもない。
「冥界でこれを読んでおけば迷うことはないでしょう」
なるほど。こんな感じの本はよくある。
主に旅行系の本だ。
観光名所やその地域の事を細かく書いてあったりするが……これは、観光とかそういう物ではなさそうだ。
まず、ページを捲ると目次。
『はじめに』から『裁判』『仕事と期間』『あの世を歩く』『立ち入り禁止区域とタブー』と続く。
俺は『立ち入り禁止区域と~』というのが気になった。
「案内人、機動隊、冥府関係の建物は原則立ち入り禁止……そうなの?」
「はい、機密保持の観点から原則立ち入り禁止です」
「へぇ~。第七管区隊の案内人に気を付けること……ナニコレ?」
藍坂の表情が曇る。
何かいけない事だったんだろうか?
「第七管区隊は冥府最大の員数を誇る隊です。ただ、素行が荒くよく問題を起こすんですよ…だから気を付けること」
「はぁ…」
なるほど、安全に過ごしたいならこいつ等には近付くなって事だな。よくわかった。
「読んでおいて損は無いです。私はこれから所用がありますから席を外します。サボったら厳罰ですからね」
「はい……具体的に罰って?」
藍坂は少し考えるように俯いた。
「そうですね……橘花(猫)の相手をしなさい」
それは…罰なのか?
まぁ罰だと言うのなら罰なのだろう。
「分かっ―」
「後、言葉遣いは直しなさい。私は上官ですからね。『分かった』は敬語で?」
「…分かりました」
「よろしい」
藍坂は満足げに笑みを浮かべ、そして待機所を出て行った。
「ハァ…仕方ないか…」
「ふむ、溜め息とは感心しないね。栄光ある案内人になり、第四十ニ管区隊に配属されたと言うのに」
誰だ?
聞いた事のある声だが。
「殺風景な隊舎ね…うわぁ、こんな所で寝てるし…間違えたかしら」
声のした方向を見ると長い黒髪の少女…笹原だ。
「笹原?」
床で寝る姫野を横目にこっちに向かって歩いてくるが、…めっちゃ睨まれてる!俺何かしましたね…
「裁判所よりアナタを監視するよう命令されました。令状もここに。これから解除命令があるまでアナタを監視します。良いですね?」
……何が?
いっつもそうだよ!分かるように説明しろよ!
「これを読んで下さい。音読で」
一枚の紙。
A4サイズのコピー用紙だ。
『令状』と一番上に書いてある。
「えぇと…『令状 本日より無期限で弐等案内士「楠祐一」を機動隊による監視行ふ事を命ずる 尚、この決定に不服がある場合、期限までに裁判所に出頭すること 期限は令状発行から拾弐時間とす 冥府最高裁判所第壱法廷 皇紀弐千六百七拾壱年 六月弐拾参日 拾六時零七分発行』」
今の時間は6月24日の午前6時59分……期限は12時間後だから…24日の午前4時7分…今は6時59分…あ、7時になった……期限過ぎてる!!
「はい、あえて過ぎてから来ました。」
えぇぇええ?
ナニソレヒドくない?
「大体何で監視?俺、何にもしてないのに」
「冥府の役人に色々削除された事実を知って怨みを持ちませんでした?転生出来ないって分かった瞬間、ムシャクシャしませんでしたか?」
笹原は俺の目を見つめて言った。
吸い込まれそうな黒い瞳…
「ま、まぁ多少は」
「それで冥府に弓を引かないように監視するんです」
…なるほど、俺は危険因子という訳だ。
面倒な事をされる前にそれを予防する、確かに合理的だが俺は別に叛逆するつもりはないぞ。
「…もし、弓を引きそうになったら?」
笹原は懐から光る"モノ"を取り出し俺の喉に突き付ける。それがナイフでそれも軍用のコンバットナイフであると俺が認識出来るまで時間を要した。
「…殺させて頂きます。それはそれは残忍で無惨で残虐で残酷に殺します。叛逆の芽を摘むためなら何でもします…それが我等が機動隊なんです」
ナイフを懐に仕舞い、ため息をひとつ吐いた。
「でも、ホントに必要なのかなぁ?」
うぉっ?急に話し方がラフな感じになった。
きっと、こっちの話し方が素なのだろう。
「何が?」
「監視のこと。見た感じ"普通"を絵にしたみたいな人を監視してもなぁ」
俺の隣の席に座り、背筋を伸ばす。
…さっきまで気づく余裕がなかったけど改めて見ると笹原ってけっこうスタイルいいな…
「ほほう…お姉さんはCからDとみましたが…霧島調査官はいかがですか?」
「ん~どうでしょう?(長●茂雄調)」
「C!Cで!」
『Cカップ!Cカップ!Cカップ!』
スラム●ンクの「ディーフェンス!ディーフェンス!」みたいなノリで叫んでいるのは姫野と食堂兼売店職員の霧島だ。
笹原は最初呆然としていたが姫野たちが言っている意味がようやく理解できたのか顔を真っ赤にして両手で胸を隠した。
「ところで誰かな?」
「需品課の霧島をなめないで欲しいよ。あれは治安維持課の制服さ」
「流石、かーさん。それで?治安維持課の女の子が何の…まさか!私に会いに!?」
「ねーよ」
そう言って正面入口から待機所に入って来たのは樫山だ。
何故か上半身裸で上着はだらしなく手に持っている。
筋トレでもしていたんだろうか…樫山の体はかなり引き締まっているし、それなら上着を脱いでいるのも分かる
「きゃー。けんちゃんのエッチー(棒」
「…霧島よぉ。横にいる変態を合法的にぶっ殺す道具くれよ。金は払うからよ」
「じゃ、じゃあ樫さん×楠君で書かせてよ!そ、それか樫さん×原さん×楠君で!!」
霧島から突然赤い液体が飛び散る。
「あっ…鼻血が…」
…気にしない気にしない
絶対突っ込まないぞ。
「かーさん、3部予約下さい」
「よし、お前らぶっ殺す。絶対ぶっ殺す」
ベルトに挿していた拳銃を抜くと姫野たちに構える。
姫野たちは「きゃー」と棒読みで叫びながら隊舎の奥へ走って行った。
なんと言うかコントだな。
きっといつもこんな感じなんだろう。ツッコミが居てボケが居る、コント集団だよ。
「んで?そこの機動隊の姉ちゃんは?」
「え?あっ、はい!!治安維持課第一機動中隊中隊長『笹原夕』一等士官です」
椅子に座っていた笹原は瞬時に立ち上がり言った。
立ち上がる時に笹原の体から"カチャカチャ"と金属音がしたがあえて何も言うまい。
気にしていたら身が保たないだろう。
「死霊案内課第四十二管区第二分隊分隊長『樫山賢吾』二等案内尉……そこは雛ちゃんの席だから退いた方がいい。楠、別の席を用意するから手伝え」
「あ、はい」
樫山なら机ぐらい片手で持てそうだけどな…
もちろん俺はそういう事は口にせず樫山の後に続いた。

*******************

隊舎二階は各個人の部屋があるが奥の方は物置になっている
長年放置されていたのかぐっちゃぐちゃで机は奥の方で埃まみれになっていた。
その中から二人でウンウン言いながらステンレス製の事務机と椅子を取り出した。
「お前そっち持て。椅子は後で姫野に持って来させる」
「了解」
また、二人で机を運びしばらく歩いた所で立ち止まった。
「姫野!おい、姫野!」
扉の前で叫ぶ樫山、扉には『姫野桜花☆』と書かれたプレート、星の部分は幾度か消した痕跡がある。
「なに~?今、けんちゃんとユウ君のBL描くので忙し-」
「今すぐ俺に拳骨で殴られるのと椅子を運ぶの、どっちがいい?特別に好きな方を選ばしてやる」
「運びま~す」

…あの世はもっと殺伐としてるイメージだったんだけどな、これじゃ現世と変わらないじゃないか。
……でも嫌いじゃない
何かいいな…この感じ
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