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俺が泣いている間、誰も何も言わなかった。

"泣いていても何も始まらん"
ふと、そう思った俺は袖で涙と鼻水を拭き、顔を上げた。
「あの世に行くんだろ?早く行こう」
「へぇ、腹括ったんですね。いいでしょう100点満点です」
うんうんと頷きながら藍坂が言った。
「よぉ、居士さん。俺は今日でこの仕事辞めるんだけどよ、最後の仏さんが居士さんで良かったよ。こんなに早く腹括るったぁやるじゃないか」
白い歯を見せながら桐山が言った。
「さぁ、楠さんも桐山さんも最後のお務めですよ。地下鉄まで少し歩きますからね…悔いの無いように」
そう藍坂は言うと長いおさげ髪を靡かせ歩き出した。俺と桐山は後へ続いた。

***************

地下鉄への道中 俺たちは寄り道をしまくった。
学校、バイト先、友人の家…
だが誰にも会わなかった。会ってはいけないそうだ、会って未練が湧いてはいけないかららしい。
「家族にもか?」
「もちろん。家族は特に面会禁止です。未練が湧きますからね」
そう言うと藍坂は突然拳銃を出した。
どこから出したのか小柄な藍坂には似つかわしくないゴツい銃だ。
銃身をスライドさせ、銃弾を装填した。
おいおい、何てもん出すんだよ。
「最後に訊きます。冥界へ行って良いですね?あの世に行くともうこっちの世界には戻れません。もし拒むならここで強制成仏させないといけません」
気が付くと後ろにいた桐山も拳銃を持っている、桐山は古臭い銃だ。
銃に「十四年式拳銃」と彫られている。
「居士さんがホントに覚悟したならコイツを使わなくて済むんだが」
覚悟か…
俺は目を瞑って考えた。
家族、友人、同僚…
みんなにはもう会えない、会ってはいけない…
「分かった。会えないのは惜しい…めちゃくちゃ惜しい。もう一度会いたい、でもそれは叶えちゃいけないなら覚悟を決める。あの世への案内宜しく」
藍坂は一瞬驚いた顔をしたがすぐに柔和な笑顔になった。
拳銃を仕舞い、服の皺を伸ばし姿勢を正してゆっくりと口を開く。
「では改めて…あの世までの道中ご案内させて頂きます、藍坂雛です。…短い人生でしたがお疲れ様でした。では、ご案内させて頂きます」
「宜しくお願いします」
藍坂を先頭に俺たちは歩きだした。
死出の旅だ。

*****************

気が付いたら地下鉄に乗っていた。
三途の川駅で降り、階段を上がるとすぐに広大な川が目に入った。これが三途の川か…
対岸は霧でうっすらとしか見えない。
『間もなく彼岸行きの本日最終便が出ます。乗船許可証のある方のみ乗船可能です。乗船される方はお急ぎ下さい』
拡声器を持つ黒スーツが言っている。
「では藍坂分隊長、お世話になりました」
「はい、お疲れ様でした。…頑張って下さいね」
桐山は敬礼をすると船へと向かった。
「あの人は?」
「桐山さんは今日で仕事を辞めるって言ってましたよね?つまり懲役が満了するので転生するんです。たったの66年ですよ」
66年…ロクジュウロク年!?えぇ!?
……66年前って言うと……戦中じゃないか!
「そうです。だから慣れた道具がいいって言って十四年式拳銃を使ってたんです」
イヤイヤ
そんな事はどうでもいいわ。
66年も懲役食らってたの!?
うへぇ…
「アナタは不慮の事故ですし…せいぜい20年じゃないですかね」
「20年か…20年!?」
「はい、そんなもんですよ」
えぇ~?
「何で20年!?事故なのに?」
「アナタは17歳という若年、不慮の事故ですが親より先に逝くという重罪を犯したので20年が相当かと」
理不尽!
理不尽すぎる。
「それより先に進みますよ。まず、船着き場の向こうに奪衣婆がいるので着替えてきて下さい」
藍坂が指差した方向に小さな小屋がある。
ホントに小さな小屋でトタン板で囲んだだけの粗末な作りだ。小屋の前に死装束を着た人座っているのが見える。
仕方なしに近付くとその人がコッチを見た。どうやら女の人らしい。30代から40代ぐらいだろう、もしかしたらもっと若いのかもしれない。
ボサボサの長い髪、虚ろな瞳…容姿で年齢を判別するのは不可能だ。
髪で右目を隠し無表情でコッチを見ている。
更に近くに寄るとその女の人は立ち上がりこっちへ歩いて来た。異様な雰囲気に俺は思わず後ずさりしてしまう。
「…アナタ、コレを…」
左腕に『奪衣婆』と書かれた黄色い腕章を填めているのを見る限りこの人が脱衣婆なんだろう。
手渡された、白い布はどうやら着物らしい、着ろってことか。
「その…小屋で着替えて…」
遠くで見ても粗末な小屋だが近くだと更に酷い…
軋む扉を開け中へと入る。中は4つの個室にベニヤ板で区切られ、酷い有り様だ。電気が無いから暗い。
一番手前の個室に入った。部屋は人が1人やっとぐらいだ。正面の壁に『死装束ノ着付ケ方』と書かれた紙があり、図解入りで説明している。
とにかく着替えて早く出たい。
怖い、とにかく怖い。
何で壁に『死にたくない』とか書いてあるんだよ。
死んだからここにいるんだろ。
着付けなんて知るか。
適当に着て、出る!


出ると奪衣婆が座っていた。
光を差さない虚ろな瞳でこっちを見ている。
「な、何?」
「…服は置いて行ってよ…」
俺が脇に抱えていた服を指差した。
これは俺の私服だ。
「あ、はい」
奪衣婆の放つ異様な雰囲気に圧倒され服を渡した。なんていうか渡さないとえらいことになりそうな気がしたからだ。
「案内人さんが待ってるから行ってあげて」
急に流暢になった。
もしかして…この服が欲しかっただけか?
大事そうに服を畳み脇に置いた。
そして最初見た時のように座り無表情でこっちを見る。
「…なに?…着替えたなら用はないわ…」
やっぱり服が欲しかっただけじゃ。
「楠さん、何をダラダラしているんですか?」
藍坂はかなりイライラしているようだ。
不機嫌そうに言った。
…何なんだ?
「…あ、そうだ…藍坂さん…梅之宮さんが探してましたよ…」
「やっぱりですか。だからここに長居はしたくないんですよ。ホラ、楠さん行きますよ」
「あ、はい」
どうやら、藍坂は梅之宮という人に会いたくないからイライラしていたらしい。
俺には関係ないしどうでもいいや。

しばらく河原を並んで歩いていると橋が見えた。
木製の大きな橋だ。
「あれで川を渡ります。あそこには番人が居ますから渡河賃はそこで渡すんです」
「渡河賃?」
「はい、六文銭ですよ。持ってるでしょう?」
おいおい
持ってる訳ないだろう。
「あれ?おかしいですね」
「?」
「楠祐一さんですね?」
刺さるような冷たい声がした。
俺と藍坂の死角…つまり真後ろから声がした。
視界を動かし、声の主を捉える。
「えぇと?誰?」
声の主は藍坂と同じような真っ黒のスーツを着ている。どうやら、制服みたいだ。
「失礼しました。私は冥府治安維持課第1機動中隊中隊長『笹原 夕(ササハラ ユウ)』一等士官と申します。楠祐一さんですか?」
笹原は黒いロングヘアを風に靡かせ、口調こそ柔らかいものの目は真っ直ぐ俺を見ている。
右耳に小型のインカムを嵌め、コードがポケットに繋がっている。多分、ポケットには無線が入っているんだろう。
「うん、楠祐一は俺だ」
「…対象『PLUTO』を確認、身柄を確保します」
「身柄確保?待ちなさい。機動隊にそんなことする権限は無いでしょう」
俺を押しのけるように藍坂が前に出る。
「治安維持課からの命令ですよ」
「死霊案内課には連絡ありません。よってその命令に服従する訳にはいきません」
「ふん、死神が……」
吐き捨てるように言うとインカムの側面にある小さなボタンを押した。インカムのLEDが蒼く光る。
「HQ、対象『PLUTO』の身柄確保は困難。死神が…はい…分かりました。復唱、楠さんの身柄は案内課に任せます。後で後悔しても知りませんからね」
通信を終えるともう一度ボタンを押す。LEDの光はゆっくりと消えた。
「後で悔いるから後悔ですよ。日本語は正しく使いましょうね?お嬢さん」
悔しそうに笹原は奥歯を噛み締める。
得意げに鼻をならす藍坂とは正反対、悔しそうな表情だ。
「死神風情が…」
「身柄を確保したかったなら現世に下れば良かったんですよ。それか閻魔様の命令書を持ってくればね」
「分かりました。次回からそうさせて頂きます、藍坂雛一等案内尉殿」
そう言うと笹原は船着場へ歩いて行った。
不敵な笑みを浮かべたのが妙に印象的だった。

******************

「渡河賃を渡さないと通す訳にはいかない」
丑の刻参りの格好をした女が言った。
「六文銭を持ってないって言うんですよ。どうしましょうか」
「どうするも私は渡河賃さえ貰えれば構わないんだが」
三途の川に架かる巨大な木製の橋。
丑の刻参りの格好を女はここの番人…橋姫と呼ばれる妖怪だそうだ。
さっきの脱衣婆同様この人も左腕に橋姫と書かれた緑色の腕章を填めている。
「区隊長に訊いてみればいいじゃないか」
橋姫の提案に藍坂は『その手があったか』と手を打った。
ストレート型の若干古臭い携帯を取り出し、どこかへ連絡を取る。
「…お疲れ様です、藍坂です。…はい。はい、はい………え?はい。…分かりました、隊舎へお連れすればいい訳ですね?はい。承知しました、失礼します」
電話を切るとため息を1つ吐いた。
「楠さんはわが四十二管区隊舎へ御案内致します。黄泉から令状が出たそうです」
「よ、黄泉から!?だったら早く通れ」
橋姫が道を開けた。
『黄泉』と聞いた途端に何か態度が変わった。
なんだ?何かあるのか?

「楠さん、もしかしたら…転生出来ないかもしれません」
「………え゛?」
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