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サワサワとそよ風が通る林の中はヒナタより涼しく、過ごしやすい。それが過酷な戦場であることを一瞬でも忘れそうだった。

彼は待ち続けた、ずっと。
3日前から林の中に身を潜め、服の中に虫が入ってきても、蚊に喰われても無視し続けた。
彼は迷彩服の上にギリスーツを被り、愛銃にもカモフラージュを施し、目標が現れるのを待った。

そう…彼はスナイパーだ

ジープが3台土煙を撒き散らし、ガタガタと揺れながら走る。
彼は2台目のジープに狙いを絞った。
絞るようにM82(対物狙撃銃)の引き金を引く、通常の狙撃銃ならタァーンと銃声がするがM82は違う。
バコン!という脳髄まで響きそうな銃声がするとジープの防弾ガラスを突き破り助手席に座っていた敵兵の鼻の辺りに命中すると首から上を粉々に飛び散らせた。
ジープの運転士は咄嗟にアクセルを全開にし回避しようとしたが前方を走るジープにお釜を掘る事態を引き起こした。

彼は次弾を1台目のジープの運転士の腹部に命中させる。
運転士は体を腹から上下に真っ二つに割られ即死し、車列は停止した。
彼の潜んでいた林から少し道路側に行った茂みから迷彩服を着こんだ、兵士達がジープに突撃し敵兵を蜂の巣にしていく。
タタタタ、タンタン と乾いた音が辺りを埋め尽くした。
銃撃戦はこちらの一方的な展開で敵は混乱状態故にこの場から逃げようとしたが自動小銃の5.56mm弾は敵兵を確実に捉えた。

「曹長、敵を全滅させました」
彼の傍らの無線がガアガアとノイズを発しながら部下の報告を伝える。
彼は任務の完了を確認し、やたらと重たいM82を背負い林を出た。
「曹長、やりましたな。こいつ…首から上がないですが、ゴルギスタンの歩兵連隊の連隊長ですよ」
兵士の1人がジープから死体をズルズルと引き摺り出し道路に無造作に棄てた。半分血で汚れて判読できないが"RegimentCommander"と上着に刺繍してあるのは確認できた。
「おい、見ろよ!こいつ階級が大佐だ!」
「すげぇな!今回は大物ばっかりだ!」
2台目のジープの後部座席で絶命している敵兵を見て兵士が叫ぶ。

「よーし、ジープに付いた血と内臓と脳ミソを拭き取れ。コイツで帰るからな綺麗にしろよ」
肩章を見ると少尉のようだ。バンバンとジープのボンネットを叩き部下に命令する。
兵士は死体を道路に投げ棄て、シートに水をかけて拭いた。
「臭っ!この脳ミソはいつ香いでも臭いわ」
「脳ミソって紫色なんだな…初めて見た」
「うるせえな、無駄口叩くな。脳ミソなんて腐るほど見れるから安心しろ」
「見たくねぇよ」
頭を吹っ飛ばされた敵が座っていたシートを拭いていた兵士が話している。
「昔ニッポンに行った時にヤキニク屋で内臓食ったなぁ、アレにそっくりだ」
兵士の1人がシートを拭きながら胴体から腸をぶちまけている死体を指した。
「ニホン人は内臓も食うのか!流石だな、サシミ、スシも生だろ?サバイバーな国だな」
最前線の兵士は冗談が大好きだ、たとえ大して笑えなくてもよく笑う。厳しい戦場は笑う事がとても重要で自分を維持する為に笑うのだ。
「曹長、ジープに乗って下さい。綺麗になりましたよ」
二等兵が彼…コート・ライル曹長を呼んだ。
ライルはM82をジープの荷台に載せると自分も荷台に乗り込んだ。
「曹長、そんな荷台に乗らなくても。シートがありますよ」
「…俺はこっちでいい」
二等兵は首をかしげ銃撃で穴だらけになったドアを開け運転席に座った。
その時、パン!パン!と乾いた音が響いた。
見ると、兵士が腹から血を流し呻き声をあげている。
「あいつ!死んだふりしてやがったな!」
死体の山から1人脱兎の如く逃げるのがみえる。
「畜生!逃げ足早いぞ!」
ライルはM82のスコープの十字を逃げる敵兵に合わせ引き金を引いた。
12.7mm弾が敵兵の背中に命中し、胸の方から血と内臓を道路にぶちまけ身体を上半身と下半身に引き裂かれて絶命した。
一瞬の出来事で少尉はポカンとしたがスグに正気を取り戻し命令をだす。
「ふ、負傷者を回収しろ。衛生兵!どこだ!?応急措置だ」
撃たれた兵を含め、全員がジープに分乗し一路陣地を目指した。

未舗装の砂利道をジープ3台が土煙と跳ね上げた石を撒き散らし走る。ガタガタと揺れに揺れまくり車外に落ちそうになること6回、ジープは陣地に到着した。

陣地はいつもより騒がしかった。
「何かあったのか?」
少尉が門を守っている兵士に訊く。
「先ほど、サンライドが陥落したそうです。それでこの陣地に機甲大隊が配備されることになりました」
サンライド基地を中規模の基地だとするとこの陣地は3分の1以下の小規模陣地だ。その陣地に機甲大隊を配備するのだからいよいよもってこの戦争はヤバい事になっている。

「サンライドが陥ちたってよ」
「聞こえてるよ」
「ヤバいな、サンライドは戦車とか配備して迎撃したんだろ?」
「ヘリもかなり配備してたって聞いたぞ」
「そんなサンライドが陥落したならこんな小陣地じゃ無理だ、どうするんだよ」
兵士たちは若干の恐慌状態に陥っている。
「…サンライドに配備された戦車はM60だ。あんな古い戦車を配備したんだから陥落するのも当然だ」
兵士たちは一様に驚いた、ライルが自分から話したこともそうだが何故ライルがそんなことを知っていることの方が驚きだったからだ。
「ライル曹長、それは本当ですか?」
「…本当だ、サンライドにいる友人に聞いた」
ライルは俯き気味にM82のバレルに付いた汚れを取りながら言った。
「M60って退役してるんじゃないのか?今はレオパルド2のA6をライセンスで生産してるらしいし」
「レオパルド2A6はかなり強い戦車じゃないか、それがここに来るのか」
レオパルド2が配備されると分かった途端、兵士たちの士気は上昇した、第二世代戦車を使っていたのがいきなり第三世代戦車を配備するのだから士気も上がって当然だろう。

ジープから降りた兵士たちは建物の影で銃を分解しクリーニングを始めた。ライルも兵士たちから少し離れた位置でクリーニングしている。

「曹長ー!コート・ライル曹長ー!」
ジープを運転していた二等兵が走ってきた。
ライルの前で敬礼したのでライルは答礼をする。二等兵は息を弾ませゼイゼイいっている。
「メイヤー大尉が大至急、士官室に来いと」
二等兵は用件を伝えるとサッと敬礼し自分の銃を分解しだした。
ライルは分解していた部品を組み直すとM82を背負い、士官室に駆け足で行った。

士官室の前にはメイヤー大尉が既に待っていた。
「おお、曹長来たか。すまんがここで話がある」
中にいる他の士官には聴かれてはマズイのだろうか
「内偵からの連絡だ、12時間後にサンライド東空軍基地にゴルギスタンの将軍が到着するらしい、スグに出撃して暗殺してくれ。バレット中尉を同行させるから観測手として使ってやれ」
頼むぞ、メイヤー大尉は肩をグッと握ると
「バレット中尉はゴルギスタンの内偵かもしれん、目を離すな。いざとなったら殺れ」
小声でボソッと言った、その後大尉はスグに士官室に戻っていった。

バレット中尉には出撃直前まで作戦を言わずに準備を進めた。
「悪いがポイントまで歩いて行ってくれ、装甲車やジープは目立つからな」
メイヤー大尉が門まで見送りに出てくれた。
今になって作戦内容を聞いたバレット中尉は動揺を隠せていない。
「た、大尉 自分は観測手などしたことがありません。護衛ならまだしも…」
「なぁに、距離と風を伝えるだけだ」
ポンポンとバレット中尉の肩を叩きながら耳元でボソッと呟いた。何を言ったかは聞こえなかったがいい内容ではなさそうだ。

「…バレット中尉 …先に歩いて下さい、自分は装備が重いので後ろを歩きます」
「あ、ああ 分かった」
バレット中尉はM16A2(自動小銃)とベレッタM92F(拳銃)を装備し歩いていく、ライルはM82とバレット中尉同様にベレッタを装備している。

サンライド東空軍基地までは歩けば3時間ほどで着くが、敵から隠れたりすると5時間はかかるだろう。目標ポイントはサンライド東空軍基地の管制タワーから600mの林の中だ、到着まで12時間はあるから余裕をもって行動出来るだろう。


3時間後

前を歩いていたバレット中尉が吹っ飛ばされて黒焦げの装甲車の影に隠れた。
「曹長、ギリスーツを着込むんだ」
バレット中尉はM16A2にサイレンサーを取り付け、自らもギリスーツを着込んでいる。
「敵がいる、あそこだ」
バレット中尉が指した先に確かに敵が2名いる。
「曹長は右側、俺は左側を殺る」
ライルは右側の敵兵に狙いを絞り、バレット中尉も狙撃の体勢になった。
バコン!という重たい銃声とパシュッというサイレンサー独特の銃声がほぼ同時に聞こえ、敵兵の頭を吹っ飛ばした。
脳ミソと血を道路に撒き散らし、敵兵は血の海に沈んだ。

敵を撃破した2人は目標ポイントに向けて歩き、途中幾度となく足止めをくらいポイントに到着したのは出発から7時間も過ぎていた。
「ここからなら滑走路が一望できる、曹長頼むぞ」
バレット中尉は観測用の双眼鏡を覗きながら言った。
「…中尉、何故ここが滑走路を一望出来ると知っていたんだ?」
M82の二脚を固定しつつライルが話す。
「え?ああ、大尉に教えてもらってな」
何くわぬ顔で無線を弄っている。
「それがどうかしたか?」
「いや…」
ライルはバレット中尉にスパイかどうか訊きたかった。
「そういや、大尉にタワー管制の周波数も教えてもらったんだよ」
バレット中尉が見せた紙には120.8とメイヤー大尉の筆跡で書かれていた。
「…大尉は何故知っていたんだ」
「内偵に聞いたんじゃないのか?」
おぉ、聞こえる聞こえる
とタワー管制の無線を傍受しつつ、何かメモを録る。
「…中尉、出発前に大尉に何を言われてたんだ?」
ライルの言葉にバレット中尉は指の動きを止めた。
「何の話だ?」
「……俺は出撃前に大尉から中尉はスパイかも知れないと言われた」
ライルはベレッタのスライドを引き初弾を薬室に装填した。大尉から言われたことを言わないとさもなくば…といった感じで銃を構える、もちろん引き金に指は掛けていないが。
「………曹長、銃を下ろせ。話してやるから下ろせ」
ライルはベレッタにセイフティをかけ地面に置いた。
バレット中尉は驚いた素振りを見せない。
「大尉は俺に曹長はスパイかも知れないって言ったんだ」
ライルは直感的にスパイはメイヤー大尉かも知れないと思った。しかし確証はないし、ましてや上官であるメイヤー大尉を疑うなど軍人としては0点だ。
「…中尉、今すぐ俺の小隊に大尉を監視させるように無線をいれてくれ」
正確に言うとライルは小隊長ではない、まあライルがいるから小隊が成り立っているようなものだが。
「大尉がスパイだってのか?確証がないだろ。そりゃ、狙撃対象が偽物だったとか、ここが包囲されたとかならまだ分かるが…まだ早いぞ」
バレット中尉の言う通りだ、まだ確証もない。しばらくは様子見のようだ。

30分後

滑走路の周りをMi-24dハインド(ヘリコプター)が旋回をしている。ライルたちの上空をしつこく飛んでいるがバレた様子はない。まあ二人共ギリスーツを着てアンブッシュしているからヘリからは見付かることはない(赤外線装備をしていたら話しは別だが)。

バラバラバラバラ、と超低空でヘリはライルの真上をホバリングしている。サイドハッチから敵兵が顔を出した、その敵兵はサーマルゴーグル(赤外線ゴーグル)を装備していた。
驚いた様子もなく自動小銃を持つとバリバリと乱射した。
直ぐ近くの地面が弾ぜ、何十回と地面が弾ぜたが幸い被弾せずにすんだ。
「くそっ!何でバレた!曹長、後退だ!銃撃が止んだら逃げるぞ」
バレット中尉の命令にライルは声を出さずに首を縦に動かし了解の意思を伝えた。
「こちらバレット中尉!メイヤー大尉はいるか!?」
バレット中尉が無線に怒鳴っている時だ、バラバラと爆音が聞こえ滑走路側から2機ヘリコプターが高速で接近してきた、どうやらヘリコプターはMi-17(多目的ヘリコプター)のようだ。
「くそっ!空挺だ!ヒップの操縦士を殺れないか!?」

バレット中尉はM16でハインドの搭乗員を狙撃、見事頭を出していた敵兵を吹っ飛ばした。搭乗員を保護するためかハインドは基地へと逃げて行った。
バレット中尉は腕がいい、何故狙撃手にならなかったのか不思議なくらいだ。

バコンッとライルのM82が火を吹きヒップの操縦士を吹っ飛ばす、しかし副操縦士が必死で体勢を立て直し尚もこちらに向かって来る。
「曹長!もういい、後退だ。バレてる以上無理だ」

観測用の器具をまとめ、逃げる準備を始めたバレット中尉を無視して副操縦士を狙撃する。
キャノピーを鮮血で真っ赤に染めあげ、コントロールを失ったヒップはぐるぐると回転し管制タワーをギリギリ掠め、格納庫にテールから直撃し爆発した。
メキメキという金属の折れる音と共にテールがへし折れ、メインローターで格納庫の屋根を切り裂き、破片を飛び散らせ、その直後に大爆発を起こした。
「は…はは、すげぇ。…よしっ!今のうちだ!逃げるぞ」
ライルもM82を背負うと狙撃ポイントを後にした。基地はヒップの墜落に巻き込まれた敵兵の呻き声が響いた。

さて、自らの陣地に帰還するため後退したが尚も上空にはもう1機のヒップがしつこくホバリングして空挺兵士の降下の機会を伺っている。
「曹長、まず俺が抜けるぞ。奴等が降下してきたら援護するんだ」
バレット中尉が林を出ようとした時だ。
「こちらはメルクス中継陣地です。只今無線が回復しました、バレット中尉応答してください」
メルクス中継陣地はライルやバレット中尉が所属する陣地のことだ。
「バレット中尉だ、何かあったのか?」
無線が回復した、ということは陣地で無線がダメになる自体に遭遇したということだ。
「メイヤー大尉の謀反です。ヘリコプターを強奪した後、通信室を攻撃されアンテナを壊されまして修理していました」
通信士はあり得ない事態を落ち着いた調子で言う。
「クソッ!メイヤー大尉はどうした?」
「サンライド方面に飛行中です、機種はUH-1(汎用ヘリコプター)です」
陣地の通信士は落ち着いているというか落ち着き過ぎて逆に怖いぐらいだ。上官の裏切りで気が動転しているのかもしれない。
「中尉聞こえますか?」
少し小さい声で通信士が言った。
「なんだ」
「……メイヤー大尉…いや、あの糞野郎を殺してくれませんか?」
インカム越しでも通信士の怒りが伝わって来るようだ。
「奴の攻撃で13人も死にました、殆んどが苦しみながら…中尉、お願いです。奴を殺して下さい」
通信士の頭を下げている様子が目に浮かんだ。もしかするとホントに頭を下げていたのかもしれない、それぐらい声に迫力があった。
「…それは司令の命令か?」
一拍置いたあとバレット中尉が訊く。
「いえ、私の一存です」
消え入りそうな声だ。

ガガッと無線にノイズが入る。
「バレット中尉?聞こえるか?メルクス中継陣地司令のホッブスだ。そこにライル曹長もいるんだろ?どうもメイヤー大尉のゴルギスタンの将軍が来るってのは嘘だ。ライル曹長を殺す為の嘘だったんだよ」
突然無線に若い通信士の声からダミ声のオッサンになった。
「ライル曹長はゴルギスタンの将校を狙撃してたろ?それでかなり睨まれてたんだ」
「し、司令!?」
若い通信士の声が交じる。
「それでだ、メイヤーを殺せ、命令だ。」
司令がそう言うとガッ、と無線にノイズが発生し無線は切れた。
「…こちらはバレット中尉、命令を確認。実行します」

バレット中尉が林を飛び出すと待ってましたと言わんばかりにヒップから敵兵が降下してきた。
「曹長!今だ撃てっ」
インカムからバレット中尉の声が聞こえた、ライルはそれを確認し、降下して散開しようとする敵兵に12.7mm弾を浴びせた。
バコンッバコンッとずっと聞いていたら発狂しそうな銃声が響き、敵兵が肉塊に変わっていく。
敵兵はバレット中尉のみをマークしていたのかライルの狙撃で大混乱に陥り、さらにバレット中尉も銃撃に参加した為混乱に拍車をかけた。
降下部隊が全滅すると上空で待機していたヒップが尻尾を巻くように逃げる。
「曹長、よくやった。早く行くぞ」
M82を背負い、林を駆け足で脱け出した。
「メルクス中継陣地です。メイヤーのヘリコプターをレーダーで捕捉、あと5分ほどで中尉たちの上空に差し掛かると思われます」


汎用ヘリコプターUH-1 ヒューイ機内
高度100フィート

「大尉殿、投降して下さいよ」
「うるさい!黙れ!サンライドに向かうんだ」
ベレッタM92Fを操縦士の頭に突き付け怒鳴った。
「了解しました……糞野郎が……」
最後の糞野郎は機内無線をオフにしてボソッと言った、操縦士は帰還した直後に突然銃を突き付けられサンライドに向かうように命令され自らの陣地を上官の攻撃で焼かれるのをすぐ近くで見ていた1人でもある。

「ん?大尉、前方に誰かいます」
「無視しろ」
メイヤー大尉が吐き捨てるように言う。
「しかし、発光信号で連絡しています。
コ・チ・ラ・ハ・バ・レ・ツ・ト・チ・ユ・ウ・イ・ソ・チ・ラ・ノ━━━」
発光信号を淡々と操縦士は読み上げた。
メイヤー大尉は読み上げる声を聞いてそれはそれはカッコ悪く驚いた。
「バレット中尉だと!?クソッ!生きていたのか!着陸しろ、奴のすぐ近くだ。殺してやる」

ヒュンヒュンヒュンヒュン、とローターの風切り音が辺りに響き、凄まじい風圧が草を靡かせた。バレット中尉も一瞬よろめく程の風だ。
ヒューイのサイドハッチが開いた、1人の将校が顔を覗かせる。メイヤー大尉だ。
「メイヤー大尉!」
バレット中尉はヒューイに駆け寄った。
「申し訳ありません大尉、作戦は失敗しました。曹長が撃たれまして」
「曹長が?どうなった」
とても嬉しそうだ、必死で笑うのを我慢しているのだろう口角が歪んでいる。
「応急措置はしたので今は大丈夫です、しかし早く運ばないとかなり危険です。運ぶのを手伝って下さい大尉」
ライルが倒れている方向を指差し、走り出そうとするバレット中尉をメイヤー大尉が止めた。
「中尉、大丈夫だよ。曹長には苦しんで死んでもらおう、今まで同胞を沢山殺されたからな。…ああそうだ、俺はメイヤー大尉じゃない、ゴルギスタン王国軍特殊情報局副局長モーリス少佐だ。さようなら中尉、君は腕が良すぎた、君も我が同胞を沢山殺した過ぎた、君も苦しんで死んでくれ」
ベレッタをバレット中尉の腹に向けるとパンッパンッと2発撃った。

被弾の衝撃でバレット中尉は後ろに吹っ飛ばされ、仰向けに倒れた。
「大尉!アンタの部下だろ!」
ヒューイのパイロットが怒鳴った。
「ウルサイ、俺はモーリス少佐だ。メイヤーと聞く度にヘドが出そうだった。それも今日で終わりだ!さっさと本国に帰ってフカフカのベッドで寝るんだ、ローターを回せ!」
コンコンと咳き込む声が聞こえた。
「やぁ中尉、今から死ぬ気分はどうだい?君と曹長の死に顔が拝めないのが残念だが」
ニヤニヤ笑いつつ不快な声でメイヤー大尉が言う。
「現在風は無し、目標までの距離おおよそ300m…大尉、その曹長から伝言とプレゼントだ」
中尉はニヤッとするとインカムのスイッチを確認しONになっている事を確認した。

話は少し前に遡る
「メルクス中継陣地です。メイヤーのヘリコプターはあと5分ほどで中尉たちの上空に差し掛かると思われます」
この通信でライルに1つの作戦を思いつかせた。
「…中尉、あんた囮になってくれ」
「何か思いついたのか?」
暗闇でバレット中尉の目だけが分かった。
狩人の目だ。
「…中尉がヘリを着陸させるんだ、メイヤーはアンタなら降りてくる」
「ヤツはどうやって俺だと判断させるんだ?無線か?」
ライルはバックパックに入っていたLEDライトを点滅させると珍しくはっきりと言った。
「トン・ツーを使う」
バレット中尉はニヤリと笑うとLEDライトを受け取った。
「よし、分かった。それで射撃の合図はどうする?」
ライルは少し考えるように下を向くとボソッと言った。
「『くたばりやがれ糞野郎』」

ライルはスコープの十字をメイヤーに合わせバレット中尉からの射撃の合図である言葉を確認すると引き金を引いた。
バコンッ!と重い銃声が響き、メイヤーのニヤニヤした顔が血飛沫と共に四散した。
「お前の死に顔が見れなくて残念だよ」
ライルはそう言うとM82を背負いバレット中尉のもとに走った。

M82から発射された12.7mm弾は回転しながらメイヤーのこめかみにめり込んだ。皮膚に渦を巻くように弾丸が侵入し脳に達した所でメイヤーの意識は途切れた。
それはほんの一瞬で痛みはなかった筈だ、仮にあったとするなら彼は自分に迫る死に恐怖しただろうがそれも自覚することなく、グルグルと脳をかき回した弾丸は貫通し衝撃波に耐えきれ無かった頭が上顎から下を残してバラバラに飛び散りヒューイの中の壁にベチャベチャと張り付いた。

「中尉!」
ライルが到着するよりもヒューイの操縦士の方がバレット中尉に駆け寄った。
貫通銃創であることを確認した操縦士は医療キットからモルヒネ(鎮痛剤)と圧迫包帯を取り出し、まずモルヒネを射った。
痛みに顔を歪ませていたバレット中尉は少し楽になったのか笑顔を見せる。

「大丈夫だ、大した傷じゃない」
バレット中尉が言う。操縦士に包帯を巻かれ何とか止血したが重症である事に変わりない。
一足遅れてライルも到着した。
「何言ってんだ!早く帰るぞヘリに━━」
シャァァァァァ、と飛翔音が聞こえたかと思うと火球がヒューイに命中し爆発した。
「伏せろ!RPG!」
ライルが叫び全員が横っ飛びに伏せるまで約2秒ほどあった、ヒューイのローター基部が火を吹き、バチバチと火の粉を飛ばす。
「あぁ、ダメだ。あれじゃ飛べない」
絶望に満ちた声で操縦士が言った。

ヴォォォォ、とエンジンの回転数が上がり、若干水分を含んだ土と草を抉り無限軌道が大地を揺るがす。
「BMP3(歩兵戦闘車)が3台だ」
ライルがスコープを覗き接近してくる車両を確認した。
さっきライルはヒューイを攻撃したのはRPGだと言った、しかし実際はBMP3の100mm低圧砲から発射されたAT-10対戦車ミサイルだ、気付いた時は一瞬なのでRPGと誤
認しても不思議ではないが。
「逃げよう、コイツじゃアレには敵わない」
ライルの言うコイツはM82だ、確かにM82が12.7mm弾を撃つからといってもBMP3を破壊するのは荷が重い。

ドドドドドドドドドドドド
BMP3の30mm機関砲が火を吹く、破片効果榴弾がドンドンドンドン!と着弾、爆発しライルたちの行く手を阻む。
『これは死んだかもしれない』
とライルは思った、しかしいつまで待っても次弾は着弾しない。

ライルが頭を上げると爆音を響かせ、戦車が一個小隊規模で向かってくるのが見えた。
「こ、これは…?レオパルド2A6…?」
120mm滑腔砲が火を吹く、発射ガスは陽炎を作りあげ、先頭を走るBMP3に命中、砲塔が2mほど上空に飛んだ。

「曹長!大丈夫ですか?早く乗って下さい」
声のする方向を見た、二等兵だ。
M2A2ブラッドレー(歩兵戦闘車)の砲塔から叫んでいる。
ワラワラと歩兵がブラッドレーから降車しこちらへ向かって来た。
「曹長、よくやってくれた。死んだ奴らも多少報われたかもな」
「中尉殿大丈夫ですか?装甲車まで運びますよ」

大音響と共にヒューイが爆発した、破片が四方に飛び散り、バラバラと落下してくる。
「メイヤーの墓標にぴったりだな」
少尉が鼻で笑った。
「寝れたじゃないか、フカフカのベッドじゃなくて灼熱の鉄板だけど」
バレット中尉が兵士に肩を抱えられながら言った、苦しそうな笑顔だがもう大丈夫だろう。

ライル達を襲ったBMP3は全力で反転、尻尾を巻いて遁走する。
「曹長、帰ろう」
少尉がライルの肩をポンと叩く
「了解」
ライルはブラッドレーに向かって歩いた、『今日はシートに座ってやろう』いつもはシートには座らないライルだが今日は特別のようだ、愛銃を背負うとブラッドレーのハッチに飛び込んだ。




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