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独特の花粉臭い風が窓際の席を舐めるように過ぎ去る。
この『2のA』の教室の窓は雨や冬場でない限り殆ど開いている、なので今日も例外なく全開だ。
春のうららかな陽気は朝から絶好調でHRも始まっていないのに眠くなってくる。
「ふぁぁああ…」
大きな欠伸が出た。
別に夜更かししている訳では無いのだが、こうポカポカした陽気だと自然に眠くなる。
「章吾、アンタまた夜更かしでもしたの?」
目の前に現れたのはブラウンがかった髪をポニーテールにしている女子生徒。
俺に話しかけているらしい。
「してねぇよ。ただこう暖かいと眠くなるだろ?」
「まぁねえ…確かに暖かくて気持ちいいわね」
女子生徒…広河紅葉は俺の家の隣の隣に住んでいる。家が近いから小さい頃からよく遊んでいた……まぁ俗に言う幼馴染みというヤツだ。だが勘違いしてもらっては困るから言わせてもらうが俺と紅葉はギャルゲーのような幼馴染みではなく偶然家が近いから一緒に遊んでいて、偶然同じ学校に通っているから話をする。
ただそれだけだ。

俺は小野田章吾。父親はただの会社員、母親はスーパーのレジ打ち。その2人から生まれた普通の高校二年生だ。
俺の今通っている県立大城高校も普通の県立高校で偏差値も特別高くなく、低くもなくといった感じのごくごく普通の高校に通っている。

先生が来るまでまだ余裕がある…窓の外をノンビリ眺めていると不自然な物が目に飛び込んできた。
…なんだあれ?
日本にあんなものが有るのは自衛隊ぐらいだろう。ゴロゴロギャリギャリと音を立てて校庭に侵入する物は日本にはあってはいけない物…戦車だ。
「な、なにあれ!?」
「戦車?」
「ロケでもやるのか?」
クラスどころではない学校中の人間が窓際に立ち戦車を見ている。
角張った車体はグレーに塗装されていて若干古臭い印象を俺に抱かせた。
「タイガーだ」
俺は声のした方向を見た。
スポーツ刈りのメガネの男子生徒…原田がいる。
原田は映画好きで今までにかなりの量の映画を見ている。今年の目標はTSUTAYA大城店を制覇することだそうだ。
「タイガー?あの戦車のことか?」
「そうだ。『プライベート・ライアン』とか『ヨーロッパの解放』とか観てないのか?ドイツが大戦中に作った戦車だよ」
何でそんな戦車がこんな所にいるんだよ。
警察とか自衛隊は何してる?
おぉ、教師たちが走って戦車に近づいていく…いやいや、サスマタじゃ無理だろ。

砲塔のハッチが開き黒い服を着た人が頭を出した、何か教師たちと話をしている。

……
話がついたんだろうか、乗っていた人が戦車から降り、戦車は駐車場へ誘導されていく。
校庭から体育教師の岩本が叫んでいる。
「オラァ!HR始めるから席に着いてろ!!」
冬でもカーゴパンツとタンクトップのみという典型的な熱血体育教師は戦車の乗員と共に校舎内へ入った。
みんな戦車を見たかったが岩本に目を付けられては面倒な事態になりかねない。
みんな残念そうに自らの席に戻った。
原田も残念そうに席に戻った
俺は窓際であることを利用し戦車の様子を観察していたが動きは一切無く、つまらなかった為すぐに止めてしまった。
先生が来るまで寝ていようか…そう思った時だ。
「Ob's sturmt oder schneit,Ob die Sonne uns lacht,Der Tag gluhend heis Oder eiskalt die Nacht.Bestaubt sind die…」
聞き慣れない言葉の歌が聴こえてきた。
廊下の方からだ。カッカッカッと靴を鳴らして歩く音も聴こえてくる。
教室の扉が開き青い顔をした女性…花村恭子(31 彼氏いない歴××年)が入ってきた。
何か疲れきった様子だ。まぁ朝から戦車が来たりとか有り得ない事が起こっているしな。
「えぇと…みんなに新しい仲間が加わります。入ってきて」
カッカッカッと靴を鳴らし入ってきたのは真っ黒の軍服のような服を着込んだ女の子だ。白い髪にブラウンの瞳、肌と対照的な黒い服に黒い帽子、左胸に十字架みたいなアクセサリーを付けている。…軍服か?後で原田に何か知っているか訊いてみよう。

花村恭子は口元をヒクヒクさせて苦笑いという単語が世界で最も似合う状態になっている。そして思い出したように黒板に『エヴァ・グデーリアン』と書いた。
「エヴァ・グデーリアンさんです。少し始業式からは遅れてしまったけどみんな仲良くね」
エヴァはカッ!と靴を鳴らしキヲツケをすると挙手の礼…つまり軍隊式の敬礼をした。あまりにギャップが有りすぎる。
軍人コスをしているが『勇ましい』、『カッコいい』というよりは『可愛い』のがよく似合う。
「エヴァ・グデーリアン中尉だ。以後よろしく」

……
…中尉?
「じゃ、じゃあ。エヴァさんはあの空いている席に行ってね」
空いている席…俺の隣の席じゃないか!!何で都合よく空いてるんだ!
エヴァは靴を鳴らし空いた席へ座った。
「よろしく、カメラーデン」
……カメラーデン?
俺はそんな名前じゃねえぞ。
「あ、あぁよろしく」
「小野田くん。エヴァさんは教科書とかまだ無いから見せてあげてね」
「あ、は~い」
あぁ…マジカヨ。
こりゃあしばらく大変だな。
よくわからんドイツの戦車に乗って登校してきた、よくわからん女子が俺の隣の席になった。
普通、転校生が隣の席でしかもそれなりに可愛いときたら涙を流して喜ぶ所何だが…これは喜べんな。

……
………
エヴァは授業中終始普通だった。
数学が好きなのか熱心にノートに板書している。ノートは日本語なのか…何者なんだよ…
その後の授業は興味がないのかノートは必要な部分だけ板書し後は先生の話をのんびり聴く、まったくもって普通である。ただ昼休みになるとどこかに消えてしまい午後の授業ギリギリまで戻って来なかった。

授業後のHRも終わり後は帰るだけ、俺は部活をしていないので身支度をまとめると適当に挨拶を済ませ教室を出た。
校庭に出ると教師たちのマイカーに混じって戦車が駐車している。周りには生徒たちがチラホラ遠巻きに戦車を眺めていた。
俺は映画にもミリタリーにも興味があるわけじゃない、だがこんな物が止まっていたら普通見るだろ。観察したくなるだろ?
「何だ。貴様はこのティーガーに興味でもあるのか?」
後ろから声をかけられた。
振り向くと真っ黒の制服と白い肌がいいコントラストを醸し出しているエヴァがいた
「い、いや別に興味があるとかそんな訳じゃ…珍しいだろ?」
「…ふむ、乗ってみるか?」
エヴァはそう言うと軽々と身軽に砲塔へと登る。被っていた帽子を脱ぐと白というより銀に近い髪の全体が露わになった。
しかし、すぐにベレー帽に取り替え隠れてしまった。
戦車にはエヴァの他に砲塔に2人と台車に1人乗っているらしい。砲塔の1人と台車の1人はハッチから頭を出していて分かったがもう1人は見えない。各自に操縦や射撃などの仕事が与えられているということらしい。
台車のハッチから顔を出していた男がエンジンをかける。エンジンが唸りを上げ真っ黒の排気ガスを吐いた。
「乗らないのか?せっかくカメラーデンになったんだ。そうだ、ちょうどいいな、この街を案内してくれカメラーデン」
だからカメラーデンってなんだよ。
俺はエヴァの手に引かれ戦車に半ば強制的に乗せられヘッドセットを渡された。
生徒たちが眺めるなか戦車は校門を出た。

戦車…というかキャタピラの乗り物に乗るのは初めてのことだ。こんなにも乗り心地は悪いモノなのか。
学校の前は片側1車線にしては広めの県道が東西に走っている。
繁華街から離れているため交通量もさほど多い訳でもない、いわゆる税金の無駄遣い道路だ。しかしそのおかげか戦車は悠々と(但し大いに揺れながら)前進した。
「Ob's sturmt oder schneit,Ob die Sonne uns lacht,Der Tag gluhend heis Oder eiskalt die Nacht.Bestaubt sind die Gesichter,Doch froh ist unser Sinn,Ist unser Sinn;Es braust unser Panzer Im Sturmwind dahin.」
エヴァが機嫌良さそうに口ずさむ。
今朝、廊下から聴こえていた曲だった。そうか歌っていたのはエヴァだったのか。
「何の曲だ?」
「知らないのか?『PanzerLied』だぞ?」
ぱんつぁーりーと?
知らないな。
元々音楽にも大して興味はないし海外となると全然分からない。
「それにしても狭い道だな…オットー気を付けろよ」
『ヤボール』
「おいカメラーデン、名前は?」
カメラーデンって何なんだよ。
…そういや俺の名前を教えてなかったな。ずっと「カメラーデン」って言われてたし。
「俺は小野田章吾だ」
「ショウゴか。いい名だ」

戦車は騒音と排気ガス、砂煙を撒き散らしながら県道を西へと疾走し市街地へと向かった。
警察が何も言ってこないのが不思議でならなかった。


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