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さて、目の前に顔に傷のあるオッサンがいる
俺は板の間に正座してオッサンと対峙しているのだが、オッサンは見るからに不機嫌だ。目尻がピクピク動きイライラしているのが手にとるように分かった
……何でこんなことに?


時間は少し遡る事になる

『私の実家に来てくれないか?』

このヒメコの発言で全てが決まった
とんとん拍子に話は進み、その日の内に行くことになった訳だ

夕方の4時ぐらい、学校の制服に着替えさせられた俺はヒメコに連れられ近所の神社に連れて行かれた(家の連中には飛騨たちと遊ぶと言っておいた)
その神社は小さい頃によく遊んでいた場所だ
小さい社と鳥居があるだけで神社と言えるのか怪しいぐらいだが小さい頃は飛騨とよく遊んだものだ

「おいヒメコ。実家に行くんじゃないのか?」
「そうだ。じゃあ行こうか」

鳥居の前でヒメコが一拍手を叩いた

「大蛇神の子…大蛇姫子の名において門を開ける事を命令する……開門!」

ヒメコの言葉が終わると同時に鳥居にシャボン玉の膜のような物が現れその先に見える空間を歪ませた
不安定で、いつ壊れてもおかしくない程に弱々しい。しかし、とても幻想的で俺はその光景をずっと見たく思った

「この中に入るんだ」

ヒメコは歪んだ空間を指差し俺に中に入るように促した
触れただけで弾けて消えてしまいそうな膜…躊躇するのは当然だろう

「ホラ…行こう」

俺の左手に温かい感触が広がる
見るとヒメコが手を繋いでいた、ヒメコの手は少し震えている

「勇太…」
「どうした?」
「呼んでみただけだ」

まったく…
こういうヤツだよヒメコは
…さて腹をくくるか
行くしかないみたいだし

意を決した俺は鳥居の中へと足を入れた
右足が足首程入ると引っ張られるように鳥居の中へ吸い込まれた
ヒメコを見ると同じように吸い込まれている
何これすげぇ不快だ、腹を思いっきり圧迫されたような感覚で気分が悪い
完全に頭まで吸い込まれると視界が真っ暗になり息が出来ないし声も出せなくなった

浮遊するような感覚に囚われる
しかしそれは浮遊ではなかった…これは…落下だ!
腹から胸に衝撃が走った
息が詰まる

「ゲホッゲホゴホ」

視界は真っ暗から回復していた
しかし足や手を動かそうにも動かない

…どこだここは?

目の前にはやたらデカい門がある
武家屋敷みたいな門だな

「大丈夫か?」

ヒメコだ
何事もなかったかのように立っている
きっと慣れているのだろう

「大丈夫だと思うか?」
「大丈夫だ。ホラ、もう立てるだろう」

さっきまで一切脳みその命令を聴かなかった手足は嘘みたいにスムーズに動く
俺は砂を払い落とし立ち上がるとヒメコの横に立った

「ここがヒメコの実家か?」
「そうだ。少し待ってろ?……大蛇姫子の名において命令する!開門!」

………という訳でヒメコの実家に来たわけだ
『執務室』と書かれた部屋に使用人に案内された俺たちは恐る恐る入室する
執務室には男が2人いた
入って正面にどっしり座っているのは顔に大きな傷を持つ強面の男、そしてその
すぐ横で直立不動の体勢でいる男の2人だ

「オオヘビノカミ様!」

ヒメコが正面の傷の男に言った
男は書類に物書きをしていたが手を止めこちらを見る
鋭い眼光はまるで鬼のようだ

「おぉ、ヒメコじゃねぇか!どうした?」
「すぐに親戚連中を集めて下さい」
「何でだ?」
「私と彼との関係を認めてもらいたいんです」
「でも俺は仕事中だぞ?」
「お願いします!!」

ヒメコは腰を90度の直角に曲げ頭を下げた
釣られて俺も頭を下げる
頭を下げたおかげで傷の男の顔は見えない
しかし悩んでいる風な空気は感じられた

「おい、近衛。集められるか?」
「オオヘビノカミ様の命ならば今すぐに」
「頼んだ」

ひょろっとした男は一礼すると静かに部屋を出た

「よぅ、篠田勇太。この格好で会うのは初めてだな」
「……へ?この格好?」
「おいおい忘れたのかよ。オロチカツトシは覚えてるだろ?」

オロチカツトシ…もちろん覚えている
ヒメコの妹、オロチキミコに毒を打たれた時に出会った蛇だ
まさか…

「御名答。俺がそのオロチカツトシだ」
「でもさっきヒメコはオオヘビノカミ様って…」
「それは俺の役職の名前だ。蛇はな医術、豊穣、婚姻、天候とかの神でな俺はそいつらのトップだ。もちろん神の一番上は天照大御神(アマテラスオオミカミ)だけどな」

神の中でも中間管理職という事か
オロチカツトシは筆を紙で拭き箱に仕舞った
何とも高級そうな木製の椅子から立ち上がる
腰に手を当て背伸びをした

「あ~…座り過ぎはダメだな~。イテテ…」
「大蛇の神様、集まりました」
「おぅ、今行く。ほら、行くぞ」
「はい、お父様」

オロチカツトシは腰をグリグリ捻る
その後ろにヒメコ、俺の順で続いた
「大広間」と書かれた部屋に通された
部屋は…広い
普通の家のリビングを十畳としよう、この部屋は三十畳はあるんじゃないか?
部屋は和室、周りを襖で囲まれ元々2部屋なのを襖を外して1つにしたんだろう
それでも広いな。旅館の大広間より広いんじゃないか?

「全員集まったか?」

部屋にはズラリと人々が並ぶ
男が半分以上って所だ
男は50代から70代ぐらいのオジサンばっかりで女は30代ぐらいで若干若く見える

「よし、篠田勇太。俺の正面に座れ、ヒメコはその横」

俺の名前が呼ばれた瞬間、部屋にいた全員がじろりと俺を睨んだ
一番前にいる白髪頭の爺さんは左手に日本刀を持っている上に異常に鋭い眼光を放つ
背筋にゾワゾワした感覚が走る

「さて、ヒメコが婚約者を連れて来た訳だ」

オロチカツトシがサラッと言う
途端に大広間は騒がしくなった
特に後ろの方だ、何を言っているかは分からないが良くはないだろう

「うるさい!騒ぐな!」

一喝
言ったのはオロチカツトシでもヒメコでもない日本刀を持った爺さんだ
俺を含めて全員が注目する
スッと立ち上がり左手に持った刀を音もなく抜刀した

「篠田勇太とやら、ヒメコお嬢様のドコが気に入った」

爺さんは俺に刀を向けた
光源はどこにも無いのに刃がギラギラ光る
返答によっては…ということだろうか、俺を睨む目が更に鋭くなる

「どこって…」
「理由も無いのか?理由無く惚れる訳も無かろう」
「止めろ!コイツはただの人間だ、手出しは許さん」

オロチカツトシが注意したからか抜刀した刀を鞘に納める
よく見ると他の連中も日本刀だったりドスとかを持っている…ヤク●かよ

「おい、篠田勇太。こっちを向け」


ここでようやく時間を戻す
はぁ…長い回想シーンだった

俺が振り向くとオロチカツトシは冒頭のようにイライラしていた。理由は分からない

「…俺は別にヒメコとお前の関係を悪く思っている訳じゃない、むしろ賛成している」
「大蛇神様!」
「黙れ近衛。お前、俺の名前を勝手に使ってアヤコとサトコを動かしたらしいじゃねえか。あ?」
「そ、それは…」

どうやら今朝の事を言っているらしい
アヤコは「近衛に頼まれた」と言っていた。オロチカツトシには無断だったようだな

「…何故どこの馬の骨かも分からんクソガキにヒメコお嬢様をやらねばならんのです!!ヒメコお嬢様は高天原(タカマガハラ)へ行ける素質もお持ちです!」
「俺の娘は高天原には行かせん。何が悲しくてあんな面白みの無い場所に行かせにゃならん」

オロチカツトシは立ち上がり、近衛の前に歩いた
がっしりした体格のオロチカツトシとひょろっとした近衛とではハンパない差がある

「ヒメコ…もしかして、反対してるのって親父さん以外みんななんじゃないか?」
「いや、じいちゃんは多分中立だと思うぞ?さっき訊いてきただろう?きちんと答えればきっと応援してくれる筈だ」

俺は左側に正座しているヒメコに訊く
どうやらヒメコはさっきの爺さんを信頼しているらしい…俺はけっこう怖かったんだがなぁ
まぁ、そんな事より俺たちの目の前のがヤバそうだ

「娘を高天原に向かわす事が出来るのは誉れじゃないですか」
「…ダメだ。ヒメコは神とは結婚させん!ヒメコは自分の選んだ相手と結婚してもらう」

この親子は何気なくサラッと恥ずかしいセリフを言うよなあ
ヒメコもそうだがこの父親もだな
そんな事をボンヤリ思っていると俺たちが入って来た襖の辺りに誰かが居るのが見えた

「ハイハイ!カツトシさんも近衛さんも落ち着いて」

手をパンパンと叩きながら1人の女性が入ってきた
スラッとした体つきで着物がよく似合う
まるで極道の女みたいな感じだ

「ヒメちゃん。帰って来たなら母さんにも挨拶しなきゃね?」
「は、はい。すいませんお母様」

お、お母様?
マジカヨ、この両親からどうやったらヒメコが生まれるんだよ

「ほら、みんな何してるの。ヒメちゃんが彼氏を連れてきたんだから…今日は宴会よ!!」

女性がパァンと一度手を叩くと両側の襖が一斉に開き、料理や飲み物を持った使用人たちが部屋に入ってきた
家…屋敷がデカいだけはある、ゾロゾロと途切れる事のない使用人の列
俺とヒメコの前にも料理が並んだ

「リョウコ…」
「ホラホラ、せっかくヒメちゃんが彼氏連れてきたのに喧嘩しないで。アヤちゃんたちもおいで」

一番奥の襖が開くとオロチアヤコ、キミコ…もう1人は見たことないな。キミコより小さいじゃないか。…誰だろう?

「リョウコ様、このような事をされては…」
「いいじゃないの。こんな可愛い彼氏連れてきてくれてお母さん嬉しいわぁ」

着物の女性…リョウコはケラケラと笑っていた顔を突然真剣な表情にする
正座になるとゆっくりと頭を下げしっとりとした声で言った

「お初にお目にかかります…オロチヒメコの母、オロチリョウコと申します…」
「あ、えぇと。は、初めまして!し、篠田勇太です!!よろしくお願いします!」
「フフ…元気ええねぇ。そんな固くならなくてもね」

リョウコはクスクス笑う
何というか色んな顔を持つらしい

その時、右半身にフワッと風が当たった
何かがすぐ横を通ったみたいだ
右を見ると……え~と…サトコか

「お母さん。僕、このお兄さんと結婚したい」

…場の空気が凍った
まさかだ。サトコが俺の部屋に来た時に云々言ってたがまさか本気だったのか
サトコはさりげなく俺の肩に頭を置く
カツトシがフラフラとその場に崩れ落ちた
もしかしたら俺が落ち着いているように見えているかも知れない、だが内心はそんなハズはない。当たり前だろう、こんな事経験したことないからどうすりゃいいんだ
多分顔は相当引きつっているに違いない

「大蛇神様!」
「お父様!」
「あぁぁ…サトコ…お前、何を言ってるのか分かっているのか?」
「もちろん。ねぇさんの彼氏なのも、でも愛は障害があった方が―」
「サトコ!勇太から離れろぉ!」

ヒメコだ
真後ろにいたオッサンの脇差しを素早く抜き取りサトコに向けた

「お嬢様!」
「私の夫だ。私は…勇太の嫁になるんだ!」
「ヒメコ…」

ヒメコは涙目になっている
俺はいつまでも、もたれているサトコを退け立ち上がった
ヒメコにの正面に立つとギラギラ光る脇差しの刃を持った
刃で指が斬れたのか痛みが走り血が畳に滴り落ちる

「勇太!血が!」
「こんなもんヒメコの辛さに比べたら屁でも無いよ…すまんかったなヒメコ」
「バカ!…バカ…」

相当辛かったんだろう、涙を流しそれを必死に我慢しているからか激しく嗚咽を繰り返す
脇差しを持つ力が徐々に弱まり、ついに支えきれなくなったのか脇差しは重力に引かれ血に染まった畳に転がった
ゴトン…と重い音と共に脇差しは畳に落ち、同時にヒメコも崩れ落ちた

「お兄さん…」
「悪いなサトコ。俺にはヒメコがいないといけないみたいだ」
「勇太くん…ちょっと向こうの部屋に。ヒメちゃんも連れて来て…指…痛いでしょ?」

血が流れているのを意識したからか痛みが脳天を突き抜ける
だが、あそこまで格好つけておいてここで「痛い」だのグダグダ言っては示しがつかない…我慢だ…
ヒメコを血で汚さないように肩を貸して持ち上げた

「勇太…」
「なんだ?」
「…後でいい」
「そうか」

リョウコに案内され大広間を出る
その時「中々肝が据わってやがる」と聞こえた
元々、俺が脇差しを掴んだ辺りから騒がしくなっていたのだが何故かその声は脳みそにダイレクトに聞こえた
振り向こうと思ったが止めた
振り向いてはいけないような気がしたからだ

大広間の前の廊下を右に出て突き当たりを右の部屋に通された
6畳ほどの部屋、大広間がデカすぎるからだろう、やたら小さく見えた

「傷見せて」
「あ、はい」

傷口を見せると怪訝そうな顔をする
血は止まっていない
ズキズキと傷口は痛み続ける

「まったく…無茶をする…」

消毒液なのか何かヌルヌルする液体を傷口に塗った

「いい?ヒメちゃんが抜いた脇差しの持ち主は蛭でね。その脇差しにはヒルディンって言う血を凝固させない働きを持つ毒を塗っているの」

下手すれば失血死もありえたのよ
リョウコのその言葉にゾッとしたが1つ疑問符が頭に浮かんだ
"脇差しの持ち主は蛭でね"
蛭?
蛇じゃなくて蛭?

「ヒメコの親戚なのに蛭?」
「アイツは親戚じゃない…」

ヒメコが呟く
弱く弱く呟く。いつものヒメコじゃないみたいだ

「ヒメコ、どうした?気分悪いのか?」

首を左右に振り否定を現す
しかし、俯いて肩を震わせていて心配にならない方がどうかしている

「ホントに大丈夫か?俺に出来る事なら何でもしてやるぞ」
「…ホントか?」
「俺に出来る事だからな」

傷口の出血は治まっていた。しかしズキズキと痛むのは治らない
少しずつ良くなっているとはいえ痛い事に変わりない

「サトコ…」
「え?」
「…サトコの誘いには乗らないって…約束して」

サトコの誘い?
何かされたか?

「浮気はしないで…」

あぁ、そういう事か

「いいよ、約束する」
「ホントか?じゃあ、監視が必要だな…学校も家も全部」
「え?」
「じゃあヒメちゃん、学校の制服が必要ね。すぐに調達してあげる」

いやいやいや
学校は無理だろ。しかも制服って入学する気か?
大体、戸籍も無いのにどうするんだよ

「戸籍?そんなのカツトシさんの力ですぐに出来るわよ」
「勇太とずっと一緒だ」

そりゃ、俺も嬉しいけど…
ホントにいいのか?
学校だぞ?

「勉強するんだろ?まかせろ、実は勇太が学校に行っている間に『きょうかしょ』とやらを読破したからな」

読破した割には教科書が平仮名じゃないか
まぁそれは置いといて。ヒメコには学校は無理だ。未だに『コーラ』を『甲羅』
だと思い込んでいるぐらいだ

俺が反対しているからかヒメコの表情が曇る
それを見たリョウコが怪訝な表情で俺に近付いた
耳元でコソコソと呟く。それはヒメコには聞こえなかっただろう、しかしその言葉は俺を動かすには十分な威力を持っていた
"サトちゃんに頼んで君の記憶からヒメちゃん消したら面白そうね"

「ヒメコは、春から高校生かぁ~」
「おぉ、やっと分かってくれたか」

俺のすぐ横でニヤニヤ笑うリョウコ
きっと、こうなることが予想出来たのだろう
さぁて春から大変だぁ
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