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道は一本しかない
南へ下がり本隊と合流する道だ
居住性など二の次、戦うことが第一の戦車は合流地点へと最悪の乗り心地で走った
「少尉さんは結婚してるの?」

ハッチから少し顔を出しニコニコしながらクリス・トルネアが言った
彼女はハーディンらが立ち寄った村にただ独り残っていた
脚が悪く残ったのだがハーディンたちに付いて行く事にした。もう1人は嫌だからだそうだ

「してないよ」

さらりとハーディンが言う

『クリスちゃん、小隊長はな前に彼女が居たんだけどなフラれたんだよ』

ノイズを流しながらヘッドセットからバーグ一等兵の声が聞こえた

「バーグ!」
「何でフラれたの?」
『それが傑作なんだよ。しばらく付き合って結婚を申し込んだらフラれたんだよ。「軍の官舎に住むのは嫌」って言われてな』
『あの時の少尉はかなりヘコんでたな』
『そりゃあヘコむよな』

車内から笑い声が聴こえる
しかし、笑い話にも関わらずクリスはハーディンを可哀想なモノを見る目で見た
ハーディンは笑い話にされるのより同情される方が辛い

「クリス、そんな目で見るな。ヘコむだろ?」
「ゴメンナサイ…少尉さんがそんな悲しい過去を持ってたなんて…」
だからヘコむだろ

ハーディンはそう言おうとした
ほのぼのとしている…戦争なんてどこか遠くでやっているような気分になった

しかし、幸せな時間は長続きしないものだ

遠くでヘリコプターの音がすた
ハーディンはすぐさま首を前後左右に巡らせたがヘリコプターは見えない

真上!

直感的にそう思った
人の直感はたまには役立つ物だ。真上に小さいヘリコプターがいる
確実に位置はバレた
恐らくハーディンの部下を撃破した部隊だろう
まだ諦めてなかったらしい

「位置バレた!敵来るぞ!」
『ヤバい!車長!エンコ!出力上がらん!』

確かに騒音を撒き散らしていたエンジンが静かになっている
ミッション車がエンストした時のように揺れ舌を噛みそうになった

「直せるか?」
『やってみます』
「クリス、出ろ。戦車から離れてろ」

腕を掴み無理やり戦車長席から出す
台車の横にいたネスタが降りてきたクリスを背負い草むらに下ろす

「しばらくそこで伏せてろ」
「…少尉さん!」
「伏せてろよ。伏せてたら死なないからな」

今までクリスが見ていたハーディンとは違うハーディンがいた
戦車小隊隊長のハーディン・クロス少尉がそこにはいた

「こちらホーネット1。バーバパパ応答を」
『こちらバーバパパ』
「ホーネット1は故障の為動けない、追撃も予想される。大至急保護した民間人を回収してくれ」
『…了解した。回収車の到着まで護衛せよ』
「ホーネット1了解」

ネスタはエンジンルームを開け調べる
ハーディンは双眼鏡で敵を探す
バーグやヘンリーは砲塔の中にいるのだろう

『小隊長…見えます?』
「分からん…カイユースはまだいるな」

真上でホバリングしているヘリ…OH-6カイユース
機体の側面から顔を出してこちらを確認するパイロットが見えた

「車長、ダメだ。ラジエターが焼けてる、油圧は動くけど」
「砲塔回せ、ここで待ち伏せだ」
「了解」

油圧で動く砲塔はゆっくりと、車体に負担をかけないように動いた

まだ敵は見えない
ヘリは依然ホバリングしている

……
30分程経っただろうか
ハーディンが監視している反対側からハンヴィーが土煙を撒き散らして向かって来る
元々はNATO迷彩に近い迷彩だったのだろう、しかし泥と偽装で元の迷彩など分からない

『こちらランナー3、民間人の回収に来た』
「ランナー3、識別コード送れ」
『あ、すまない。グスタフは発砲した』
「グスタフの発砲確認。回収に感謝する」

戦車のすぐ近くで停車したハンヴィーの兵士はスティンガーを装備していた
すぐさま、ホバリングしているOH-6に向けた
独特の甲高い音がヘリをロックオンした事を告げスティンガーミサイルがOH-6に向け飛翔する
OH-6はすぐさま回避行動に移った、しかし遅かった
機体中央を貫いたミサイルはOH-6のテールの付け根を引き裂き爆発した。コック
ピットだけがメインローターの回転に合わせ回転しつつ飛び続けたが10秒もしない内に爆発し破片を撒き散らす

「命中!!」
「やった!」
「すぐに彼女を連れて行ってくれ。我らは敵を足止めする」
「了解した。カールグスタフとスティンガーを置いていくから使え」

草むらに伏せていたクリスにハンヴィーの運転士が近付いた
肩を担がれようやくその身を露わにする

「少尉さん…」
「頼んだぞ。絶対に生きて連れて帰れ」
「…私!少尉さんの事―」
「ヤメロ、それは何かの勘違いだ。冷静になってよく考えるんだ。…もし生きて会えたらみんなにメシ作ってくれな」
「……うん」

よし!行け!

ハンヴィーに乗り込んだクリスは顔を伏せたままだった
基地に着くまで一切話さず、顔を伏せたままだったそうだ


「小隊長~」
「何だよ」
「もったいないなぁ~って」
「あぁ確かにもったいない。このまま俺らと戦場にいるのはもったいない」

それもそうだ

バーグが笑う
ネスタもヘンリーもハーディンも笑った
しかし、次の瞬間には笑顔はなかった

「少尉!敵戦車!距離1000」
「装填よし!!」
「まだ撃つな!引き付けてからだ。投棄された戦車だと思わせろ」

敵の戦車は次々と現れる
その後ろには歩兵、歩兵戦闘車が続いた

「今なら逃げれるぞ。逃げたいヤツは逃げろ」

しかし誰も逃げない

「バーグいいのか?彼女いるんだろ?」
「小隊長~。俺が逃げたら装填は誰がするんですか」
「我々はチームです。逃げるならこんな戦車(ポンコツ)乗ってませんよ」

ハーディンはフッと息を吐いた
何か自分は間違っていたらしい。自嘲するように口元がにやけたが、もうそんな時ではなかった
目の前に迫る敵の大軍
押し寄せる波を手のひらで受け止めるようなものだ。結果は誰の目にも明らかだった
しかし、諦めて逃げればこの大軍がクリスたちに迫る
どの道この大軍はクリスたちに迫るかもしれない
小学生がみても逃げるべきと判断するだろう、だが彼らは誰の為でもなく数%でもクリスが生き延びれる確率がある選択肢を選んだ

「諸君…我が小隊最期の仕事だ。心してかかれ………撃て!!」

大地を揺るがす轟音と共に砲弾が敵軍に向かって一直線に飛んでいった


……
アルビス国軍サクラトリア基地

1人の女性士官が飾り気のない廊下を走る
立ち話をしている兵士を無理やり退け、目当ての人間を見つけた

「トルネアさん…クリス・トルネアさん!」

白いワンピースを着た少女に話しかけたが少女は無反応だ
椅子に足を抱えたまま一切動かない
女性士官は民間人なのに軍事基地にいる気味の悪いヤツのもとをさっさと離れて同じ軍人の彼氏のもとへ行きたかった

「トルネアさん、アナタに連絡したいと言っている兵隊がいるんです。すぐに通信室へ……えっ…と名前は…ハーディン少尉?」

メモを確認しつつ女性士官が話す
クリスはすぐに顔を上げた
悪い脚を庇いつつ女性士官に案内され通信室に向かった

「もうすぐ来ますから…あっ、トルネアさん、こちらです」

若い通信兵からヘッドセットを受け取りマイクに向かって話す
薄暗い通信室にはコンソールのバックライトだけが光っていた

「少尉…さん?」

返事がない

「トルネアさん…送信ボタン離して下さい」

通信兵に言われ、慌てて右手で押していたボタンを離す
ガッというノイズが流れた

『クリスか?こちらはハーディン・クロス少尉だ』

知った声だ 明らかにハーディンの声だ
クリスの目に波が溢れる

「少尉さん…!」
『死んだと思ったら生きてたよ…ただ、ヘンリーだけ死んじまったけどな』

声を出したい しかし声が出なかった
コンソールが涙で歪み頷くしか出来ない

『戦車がぶっ飛ばされて脱出したところに味方が航空支援してくれてな…生き残っちまった…クリス…約束覚えてるか?メシ作ってくれるってヤツ』
「…うん…うん」
『そうか、じゃあヘンリーの分も頼むぞ。戦争が終わったら会おうな』
「少尉さん……生きて…」
『クリスもな。じゃあ征ってくるわ』

無線はそこで切れた
女性士官は生き延びれる保証も無いのにそんな約束をした目の前の少女に同情の視線を送った
しかし、自分も彼氏とは同じような境遇であることを思い出し恥ずかしさだけが込み上げる

薄暗い通信室では人の表情など確認できない。しかし少女の顔がコンソールのバックライトに照らされ、頬を伝う涙と相まって少女ではなく大人の女性に見えた
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