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夏の章 第五話「罪の重さは」後編
2010年8月26日木曜日
10時56分 葬儀会館前

グォオオオォォォォと爆音を響かせながら真夏の真っ青の空に真っ白の飛行機雲を一筋伸ばしながら飛行機が飛んでいく。
「この方角なら仙台か新千歳だね」
姫野が飛行機を指差しながら言った。
確かに飛行機は北側に頭を向けて飛行している。
「詳しいんですね」
昨日の宴会のせいで若干寝不足の僕が言った。
「お父さんが航空会社にいたからね、パイロットじゃなかったけど。ちょっと詳しいよ」
マーシャラーって知ってる?飛行機を誘導する人なんだけどね。
と姫野は機関銃のように喋りだした。
はあ、と軽く相槌を打ちながら聞く。

時間は11時になろうとしていた。少しずつ気温も上がり始め、このままではアスファルトも溶けるのではないかというぐらい太陽がジリジリと地面を暖める。
「そういえば姫野さんのご両親はご存命なんですか?」
喋り続けていた姫野は僕が話すと同時に口を閉じた。
「まだ生きてるよ?今年で62歳だったと思うな。それがどうかした?うちの両親に挨拶でもするかい?」
姫野は冗談が好きだ、場の空気を和ませる冗談をよく言う。
「出来ないし、しませんよ」
と姫野と談笑するうちに時間は11時をまわっていた。
蝉の喧しい鳴き声も何故か心地良く聴こえる、この蝉もあと1週間もすれば死んでしまうと考えると命の儚さが身に染みた。
「蝉って地上で1週間しか生きられないんですよね…1週間は短くないですか?」
僕が話すと姫野はしばらく顎に手を当て考えた。
「そうかな?蝉にとって一生は地下の7年と地上の1週間でしょ?何で1週間かって言うと、その1週間で蝉が悔いなく逝けるように出来てるんだよ。だから蝉は1週間で十分なんだよ」
姫野の言葉は蝉の鳴き声以上にはっきり聞こえた。
いつもとぼけたように振る舞う姫野は実は策士なのではないかと最近思う、突然何か憑いたように的確な発言をする時がある、まあ すぐに元に戻るが。

「そういえば、この前小隊長が心の支え云々の事を言ってたんですが何なんでしょうね?
訊いたら怒られましたよ」
すると姫野はオモチャを与えられた子供のように目を輝かせ、もっと聞かせろと言ってきた。
「え~と、確か…今野のときでしたね。
小隊長は何でそんな強いんですかって訊いたときです」

「祐一、何の話しですか?」
真後ろに藍坂が立っていた、話しを聴いていたなら黒いオーラを放っているが今日は違っている、どうやら聴いていなかったようだ。
「いえ、蝉の一生について話していたんですが」
嘘は言っていない
「蝉…ですか、蝉の鳴き声は切ないですね。その一匹の蝉からは1週間しか声を聞けないんですから」
しみじみと藍坂は言った。
夏の日射しは殺人的に強くなり14時を回る頃には会館のロビーで通夜まで休む事になった。

同日 19時26分
葬儀会館ロビー

きっちり17時30分までに現れた松田たち四人の通夜は順調に終了し、碧と蘭の二人はソファーで姫野と話している。

姫野「昨日はどこに行ったの?」
碧「え~とね、おうちでねたの」
蘭「パパとママとミドリとあたしでいっしょにねたの」
姫野「それは良かった その事は忘れちゃダメだよ?」
碧と蘭は姫野の言葉を理解出来なかったのか首を傾げている。無理もないだろう、自分が死んでいることを理解していないのだから。
松田夫妻は僕のソファーの向かい側に座り、僕の横には藍坂が座っている。
「では、明日は9時30分から葬儀ですので9時にはここに来て下さい。色々説明しますから」

奈央が確認するようにポツポツと話し出した。
「私たちは明日冥界に行って、審判を受けて転生まで仕事をする…」
「はい、その通りです。仕事は生前の罪にもよりますが、大体5年とか8年ぐらいですかね。重大犯罪なら30年はありますが」
藍坂が奈央の言葉に補足説明を付け足した、松田はそれを無言で見ている。

「あの娘…碧と蘭はどうなるの…6年、たった6年しか生きてないのに!」
奈央が最後怒鳴ったために碧と蘭がこっちを見ている、姫野が「大事な話しをしてるからあっちに行こう」と言う。二人は姫野と手を繋ぎ奥に行ってしまった。

「少し落ち着いて下さい。大丈夫ですから。冥界もそこまでバカじゃありません、そんな重罪にはしませんよ」
僕の言葉に奈央は多少落ち着きを取り戻したようだ、頭を下げて謝る。

その後、明日の予定や色々と夫妻と話しあった。

同日 21時36分
葬儀会館ロビー

「あのぅ、碧ちゃんと蘭ちゃん、寝ちゃったですがどうしましょう?」
いつもフランクな話し方をする姫野が珍しく畏まって話している、明日は雨かもしれないな。
「あっ、すいません。すぐ引き取りますので」
松田が立ち上がりながら言う、しかし姫野は右手で松田を制しながらいつもの調子で言った。
「どうせならここに泊まろう、また起こすのは可哀想でしょ?」
一瞬、松田は困惑した表情を見せた、しかし最終的にその提案を了承した。
松田夫妻と案内人(藍坂は就寝)達の夜は長かった。グダグダとくだらない話しで盛り上がり、姫野が何処からか持って来たビールによってさらに盛り上がり午前3時ごろまで酒盛りは続いた。

翌 27日 12時48分
街はずれのトンネル

葬儀は酷いものだった。葬儀自体は普通だが酷いのは姫野だ。大して酒も強くないのに大量に飲み、泥酔し、葬儀中に碧と蘭の魂と遊んでいた。

幼児の魂が葬儀中に遊んだりすることは少なくない、しかし案内人が一緒になって遊ぶのは前代未聞だ。
まあ今は藍坂に一喝され大人しくなったが

「このトンネルの向こうは三途の川です、川を渡ると冥界です。こっちの世界へはお盆以外は戻れません。いいですね?では行きましょう」
真っ暗で出口の見えないトンネルに藍坂が吸い込まれていく、あとに僕が続き、松田の家族がそれに続く、最後尾に姫野だ。
いつも通りトンネルは真っ暗で15cm先も見えない、少しは慣れた筈だがこう暗くては何も見えないし若干怖い。
真っ暗のトンネルはザクザクという足音しか聞こえない、誰も話そうとしないから只でさえ暗いトンネルが更に暗く重く感じる。
七人はトンネルを歩き続けた、碧と蘭を途中で僕と松田が背負って歩く。
そのうち先の方に光が見えてきた。

同日 18時21分
裁判所 第18法廷

裁判所の待合室で2時間は待たされた。
藍坂が用事があると言って何処かに行ってしまい、戻ってきたのはつい5分前だ。何をしていたのか訊いてもその内分かるとしか言わないし、何をしていたんだ…

「では、俗名『松田雄大』『松田奈央』『松田碧』『松田蘭』の裁判を開廷する。各自ワタシには嘘偽りなく答えるように」
今回の閻魔様は僕を裁いた閻魔だった、中年のちょっと疲れ気味のサラリーマンって所だろう。

「え~と、碧ちゃんと蘭ちゃんね、オジサンが訊くからちゃんと答えてね?」
閻魔様は優しい口調で、だが何かを覗き込むように言った。
二人は大きく頷いた、閻魔様もそれを見てウンウンと頷いた。

「碧ちゃんと蘭ちゃんはお母さんのお手伝いとかはしましたか?」
閻魔様は手帳を開きメモをとっている。
二人が大きな声で「ハイッ!」答えると閻魔様はニコニコ顔で「偉い偉い」と言いながらメモをとる。

「じゃあ碧ちゃんと蘭ちゃんはお仕舞い。
では、奈央さんの裁判に移ります」
先程とはうって変わって途端に真面目な顔に閻魔様は切り替える。
「被告人は我が子を愛してますか?」
奈央は予想だにしない質問だったために驚いた。
「は、はい勿論です」
奈央の回答になるほど と呟きながらメモる。
「では、次の質問です。被告人は我が子が助かるなら自分が犠牲になっても構わないですか?」
閻魔様の質問は罪に関するモノではなかった、奈央は若干不思議そうにしながら答える。
「はい、勿論です」
メモをカリカリととりながら訊いた。
「最後の質問です。被告人は娘が拾ってきた仔猫を捨てたと報告されてるけどそれは事実?」
最後の質問は今までの質問とは違い奈央の罪に関する事だった。
閻魔様は奈央の目を覗き込むように訊く、奈央はうつむき、言葉に詰まる。
「ハイ、事実です」
ウンウンと頷きながらメモをとるのを止め、一呼吸おいて閻魔様は口を開いた。

「俗名 『松田碧』同じく『松田蘭』の判決を言い渡す。
被告人を有罪とする、被告人は奉仕期間を零とし特別奉仕を免除する。
被告人は閉廷後速やかに転生の準備をすること。
同じく『松田奈央』の判決を言い渡す。
被告人は『冥法第103条 小動物の保護放棄致死』のため有罪、奉仕期間3年とするが松田碧、蘭の転生が終了するまで執行猶予とする。
被告人は松田碧、蘭の転生が終了するまで傍らにて待機すること」
閻魔様の判決を聞いた奈央と松田はペコペコと頭を下げた、「ありがとうございます」二人の声はしばらく法廷内に響いた。

「では、俗名『松田雄大』の質疑をします」松田夫妻が黙ったのを見計らい閻魔
様が話す。

松田の質問はいつも通りだった。松田は「ハイ、イイエ」をはっきりと言った。
「ふ~む、嘘も吐いてる様子もないね、大きな罪も犯してないけど善行が少な過ぎるな」
頭をガリガリとペンの頭で掻きながら閻魔様が言う。

「では、俗名『松田雄大』の判決は有罪、被告人は『冥法第92条 一定以上の善行』に反し善行が基準値を下回っていたが被告人には情状酌量の余地があるとし、『松田奈央』の執行猶予が終了するまで特別奉仕期間にする、以上の罪により被告人の奉仕期間は3年にする。来世では交通安全に気を付けて、以上!閉廷!」

閉廷の宣言と同時に職員が入廷し松田たち四人を連れて行った。碧と蘭はこっちに笑顔で手を振った、こちらも手を振り返す。四人が見えなくなった所で振るのを止めたが何故か止めるのが申し訳ない気持ちになった。何故だかよく分からないが…

「藍坂案内人、これで良かったんだね?」
閻魔様がこっちに歩いて来ながら言った。閻魔様は身長は僕より若干低いぐらいか、少し目線を下げる。
「ありがとうございます、あれで十分です」
ぺこりと藍坂が頭を下げる、藍坂は開廷前に閻魔様に会いに行き減刑して欲しいと頼みに行っていたのだ、長年案内人を勤めているだけあって閻魔様にも顔がきく藍坂や一部の案内人にだけ出来る行いだ。

「今回の徳は藍坂案内人は五百、楠木案内人は二百、姫野案内人は没収な」
閻魔様が二百と墨で書かれた紙を渡す、徳は冥界の通貨のようなもので円も使えるが案内人は徳を使う時の方が多い。
「ちょっと、何で私は没収なんですか?」
言うまでもなく姫野だ、理由は述べるまでもない。
「姫野案内人…泥酔したそうじゃないか…しかも葬儀中に遊ぶとか…これからは自重しなさい、1週間の禁酒命令を42管区に発布しておくから」
じゃあ、そう言って閻魔様は執務室へと消えて行った。
その時の姫野の顔は忘れられそうにない。

その後隊舎に戻った僕たちを待っていたのは1週間の禁酒命令を受けてキレ気味の樫山と区隊長だった。
僕と藍坂が報告書を作成している横で樫山と区隊長に叱れ半泣き状態の姫野が僕に泣きつく。
「ユウ君…区隊長とカシ君が苛める…」
どこからどう見ても姫野が悪いようにしか見えないのは気のせいだろうか…
「祐一、相手にしなくていいです、これは姫野隊員の罠です」
藍坂の言う通り姫野を放置しておいた、どうせ明日の朝には元に戻っているだろうし。
それより今は報告書を書くので手一杯だ。
さくっと書いて終わらしたい所だ。

蝉時雨よりうるさい姫野の声をBGMに僕は報告書を書いている、これを30分で書き上げるにはどうすれば良いかと思ったがそれを考えるより今書いた方が早い事に気付いた。

夏の章 終
秋の章に続く





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