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硝煙と爆煙が辺りには充満していた
林の奥から飛翔音を響かせロケットが飛んだ
ロケットは戦車の台車と砲塔の間で爆発し戦車が炎に包まれる

『ホーネット3被弾!脱出しッ』

戦車が爆発した。爆発と同時に砲塔が空中高く舞い上がった
火だるまになった兵隊が戦車から転がり落ち、自らに点いた火を消そうと必死になっていたが、しばらくして動かなくなった

『ホーネット3大破!乗員と連絡とれず!』
「見りゃ分かる!歩兵はどうした!?」
『通信途絶!』
「ちくしょう!後退急げ!!煙幕ッテー!!」

爆竹に似た音を出し煙幕を射出し、それを見た操縦手が一気にエンジンの回転数を上げ排ガスと泥を撒き散らし走り去った

彼らはM60戦車、通称パットンと呼ばれる戦車に搭乗している。M60戦車はアメリカが開発したパットン戦車シリーズの最終型であるが何せ古い戦車だ。アルビス国でも既に旧式化している
しかし、最新鋭のレオパルト2は彼らには配備されていないので仕方なしにM60戦車を使っている
アルビス国軍の大半の部隊にきちんとした装備が満足に行き届いていないのが実状だ

しばらく全力で後退し、道路から少し離れた茂みに戦車を隠した
追撃はなかった
エンジンを切り操縦手が台車から出てくる

『車長。どうします?』

操縦手のネスタ軍曹が言った
車長…ハーディン少尉のヘッドセットにネスタの声がノイズ混じりに響いた

「とりあえず中隊に連絡を取らないと……こちらホーネット1、バーバパパ応答を願いま―」
『こち…イー…ルネ…ト!敵の…撃を受け…滅寸前なり!至急…援を請う!!このチャン…ルをガードし…いるユニッ…至急支援を…………』

無線はザーッとノイズを流した
しかし、すぐその後に通信が入った

『こちらバーバパパ。ホーネット1どうしました?』

さっきの切羽詰まった通信とは明らかに違った
若い声の通信兵は先ほどの無線を聴いていなかったのだろうか…

「あ、あぁ…ホーネット1は敵と交戦。状況不利と判断し後退中。残存戦力はホーネット1のみ」
『了解しました。ではそこから南に30キロ行った所にイーグルネストがいますから合流してください。本隊もそっちに向かってます』
「了解。ホーネット1は南に30キロ下がり、イーグルネストに合流する」

若い声の通信兵はイーグルネストと言った
ノイズでほとんど聞き取るのは無理だったがさっきの切羽詰まった無線は確か『イーグルネスト』と言ったような気がする
もしイーグルネストがさっき無線を入れた本人ならそこに行くのはかなりの危険行為だ

「小隊長~、どうしますかぁ?イーグルネストってさっきの攻撃受けてる隊じゃないんですか?」

ハーディンの足元に居る、装填手のバーグ一等兵が言う
バーグとハーディンの考えは同じだった
しかし、中隊の命令なら仕方がない

「南へ30キロ後退。イーグルネストへ合流する。急げ」
『アイアイサー』

再びエンジンが唸りを上げ茂みから戦車が離脱する
ハーディンの僚車は5両いた。他にも装甲車は3両、歩兵は一個中隊もいた。しかし地雷と敵歩兵の挟撃によって戦車1両になってしまった
何故かこの戦車だけ無傷だったが他の戦車、装甲車は大破、乗員も随伴歩兵も全員戦死…状況は最低で最悪だ

『ゴルギーの奴らめ…』

射撃手のヘンリー伍長が呟く
高性能マイクはそれを車内全員のヘッドセットへと伝えた
ゴルギーとは彼らと戦争している国…ゴルギスタン王国を揶揄した言葉だ

「ヘンリー…気持ちは分かるがそう言うな」
『俺たちの仲間が殺されたのに黙ってろと言うのですか!!』
『落ち着けよ伍長殿』
『何だと!?』
『うるせえ騒ぐな!耳が痛いだろが!車長、燃料が限界だ。補給しないと』

ネスタの報告を受けたハーディンは周りを見渡した
道路の先に小さな家が幾つか見えた

「分かった……アソコに村があるな、少し分けて貰おう」

戦車は一定の速度のまま砂煙を撒き散らし村へと吸い込まれて行った

村はもぬけの空だった
乗り捨てられたトラクターやトラックから燃料を拝借し何とか戦車は走れる状態になったがハーディンたちが燃料切れになりそうだ
しかし村には人影が見えない

「避難した後のようだな」
「とりあえず家に入ってみませんか?」
「やめろバーグ」

その時、全員の鼻に素晴らしい芳香が漂ってきた
パンの焼ける香りだ。この臭いは空腹に堪える
バーグが犬のような嗅覚で漂ってくる場所を検索し、一件の家を指差した

「あそこだ!」
「バカ!静かにしろ!罠かもしれない」
「小隊長!見てよ!パンだ!ミルクもある」

バーグはいち早く対象の家の窓から室内を覗き込んでいる
全員の理性が空腹に無条件降伏寸前である

「敵はいないのか?」
「誰もいません」
「村人の誰かが残っていたんでしょう。玄関から入りましょう」

ネスタは玄関へと向かうと2回ノックをした
しばらくして
「は~い」
と若い女性の声がした

「すいません、陸軍の者なんですが腹が減って…食料を分けてくれませんか?」
「…………鍵は開いてます。お入り下さい」

優しい柔らかい声だ
とりあえず拳銃をホルスターから出し、コッキングする
もし、敵だった時は戦闘になる
そのためだ

「失礼しま…す…」

ハーディンが室内に入ると玄関に車椅子に乗った少女がいた
びっくりするぐらい美人だ
車椅子の手摺りまで伸ばした金色の髪、吸い込まれそうな蒼い目
バーグの鼻息が荒くなる
それを見たネスタがニタニタ笑った

「いらっしゃい軍人さん。どうぞ?お腹空いてるんでしょ?」

少女は部屋の奥の扉を指差した
器用に車椅子を回転させると少女は扉の方向へ進んだ
ハーディンたちも一拍置いてから付いて行く

「村の人たちはどこへ?」
「避難しました。私はこんなナリだからここに残ったんです。…みんなの迷惑になるし。…どうぞ食べて下さい」

リビングへと通されたハーディンたちの目に飛び込んで来たのは、パンとミルクと簡単な肉料理だった
しかし、食べ飽きたレーションに比べたら雲泥の差だ
バーグが真っ先に椅子に座るとパンを頬張る

「バーグ!」
「いいですよ。みんなが避難してから1人だったのでこんな風に食べるのは久しぶりなんです」

ハーディンも少女の言葉に甘え椅子に座ると食事を始めた

……
すごく美味かった
最近はずっと戦車の横でレーションばっかりだったからか涙が出るかと思うほど美味かった

「あっ…と。申し遅れました。自分はアルビス国軍第63機甲中隊ハーディン少尉であります」
「ヘンリー伍長です」
「ネスタ軍曹です」
「ア゛ーヴひっとうへぇいであいまう(バーグ一等兵であります)」
「バーグ!」

少女はクスクスと笑う
楽しいのだろう
村人が避難したのは恐らく相当前だ
そこからずっと1人だったのだから…

「楽しい方ばっかりですね。私はクリス…クリス・トルネアでー」

―爆発音
クリスのセリフを遮るように爆発音が聞こえた
けっこう近くのようだ地震のように家具が揺れる

「砲撃!!ネスタ!戦車は無事か!?」
「こっちに持って来る!」
「ヘンリー!」
「偵察に行きます!」

2人はパンを1つずつ持つと走って家を出て行った
バーグはと言うと頬張った料理を飲み込もうと必死になっている

「クリス…美味いメシをありがとう。俺たちはもう行くから、また今度戦争が終わったら会おう」
「少尉さん…」
「大丈夫。敵がきたら隠れて…そうかそれは無理か」

クリスが車椅子だった事を思い出した
車椅子で移動が制限されているクリスにとって隠れるというのは限り無く不可能に近い

「敵が来ても何もしなかったら何もされないから大丈夫だ」
「小隊長!クリスちゃんを連れて行きましょう」

バーグだ
ようやく食べ終えたかと思うと突然そう言った

「無理言うなよ。大体どうやって連れて行くんだ」
「小隊長がタンクデサントみたいにして」
「クリスを車長席にか?」
「そう」

無理だろう、と思った
断続的に砲撃されている時点でタンクデサントなど自殺行為もいいとこだ

……
しばらくして砲撃が止んだ
するとヘンリーが戻ってきた

「少尉、砲撃は味方からです。敵を北6キロ地点で足止めさせる事に成功と通信が入りました」
「よし、今の内に逃げるぞ」
「少尉さん!」

クリスの華奢そうな体からは想像出来ない声だった
ハーディンを見る目は何か決意に満ちている

「私を連れて行って下さい!」

車椅子の手摺りを力いっぱい握り、必死で2本の脚で立とうとする
まるで生まれたての子馬のようによろけながらハーディンに向かって歩く

「歩けます!お願いです少尉さん!私を連れて行って下さい!」
「ダメだ。死ぬかもしれないんだぞ?」
「私は…村のみんなが避難してからずっと1人でした。今日、少尉さんたちが来てすごく楽しかった…もう1人は嫌なんです!死んでもいい!だから…」
「…少尉…どうします?」

ヘルメットとインカムがセットになったヘッドセット越しに頭を掻く
革の手袋と強化プラスチックの擦れる乾いた音をさせハーディンは悩む

「………ヘンリー、俺の予備のヘルメットを取って来てくれ」
「少尉さん」
「死んでも文句は言わんでくれよ。後、死んでもいいなんて二度と口にするな」


……
ガチャガチャとやかましい騒音と土煙を撒き散らして戦車が走る
ハーディンは砲塔のハッチの横に座り戦車長席にはクリスが座った

「クリス、戦車の乗り心地はどうだ?」
「すごく…悪い」
「ハハハハ、そりゃそうだ」

道中、会敵しなければ乗り心地の悪さなど気にはならない
ハーディンは胸の前で十字を切ると神に祈った
「せめてこの少女だけでも生き残って欲しい」
祈りが神に届いたかは分からない
今まで真面目に祈った事ない自分がしても意味がないかもしれない
しかし、何かに祈らないと気が済まなかった

オリーブドラウの迷彩色を施した戦車は南におよそ20キロの合流地点を目指して疾走する
未舗装の農道を土煙と排ガスを撒き散らして走る
のどかな風景は戦争しているのを忘れさせてくれた
(もしかしたら戦争は終わったんじゃないか)
誰もがそんな事を思った


後編へ続く


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