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同日 18時25分
岸原駐屯地

1台の96式装輪装甲車が駐屯地へと滑り込んでくる
左側の車体は塗料が剥がれヘコんでいる
門を少し進んだ所で一旦止まり隊員たちを降ろす

「竹沼さん…これは酷いね」

門にいた隊員が言った

「一応警察が連れてったけど河上村じゃあなぁ」
「無罪放免ですな」

河上村はほとんど自治区と言っていい
警察に逮捕されても村人なら何故か大体釈放されてしまう
だからと言って村人は犯罪者ばっかりではない
村に害を為す者が侵入したら如何なる手段を用いても排除しなければならないのが鉄則らしい
以前、村に河下町から暴走族が侵入した時はトラクターで道路を封鎖、軽トラで追撃するなどしたが逮捕者はいなかった

「竹沼さん、余部が気分悪いって」
「お前頭やられたからな、医務室行って来い」
「はい…」

余部がもう1人の隊員に肩を担がれ医務室へと向かうのを竹沼がぼんやり見ていると竹沼の隣に居た隊員が話す

「余部のヤツどうしたんですか?真っ青でしたけど」
「アイツ爺さんを取り押さえる時に頭を鍬の柄で突かれたんだよ、多分軽い脳震盪だろ」
「うへぇ…怖いですな」

河上村は何もない
少し前まで余所者を排除しただけはある
電気やガス、水道のライフラインが来たのは1980年代だそうだ
ほぼ自給自足の河上村
一昔前までは人々は村外は穢れがあるとして近づかない、いまは幾分かマシになったとはいえ、もし外出した時は村に入る前に塩で穢れを落とすなどの徹底ぶりだ

さっき竹沼たちが乗って来た装甲車が駐屯地の門を少し入った所でエンストしている
さすがに邪魔になるかもしれない

「原田士長!96どけろ、邪魔になる」
「さっきからしてるのですがエンジンが掛からないんです」
「何やってんだよ!牽引車持って来い!」
96式装輪装甲車のエンジンを掛けようと必死だが全く掛かる気配がない
すると、1人の隊員が軽装甲機動車で引っ張ろうと牽引ワイヤーを取り付ける

「全員で押せ!」

竹沼の部下たちで装甲車を押しても、軽装甲機動車で引っ張っても少しも動かない
その内ワイヤーが切れた

「くそぉ、90があったらな」
「戦車ですか?」
「バカ、戦車回収車の方」
「リカバリーなんて無いすよ」

この駐屯地は普通科しかいない
演習も本来、川上村の裏山を演習場にする計画だったのだが川上村が反対、座り込みをしたため断念せざる負えなくなった
なので演習は60km離れた演習場に向かう

「竹沼さん、どうします?」
「どうしようか…正門はこっちだしな」
「もう、誰も来ないだろうから此処で修理しよう」

官舎から自転車に乗って小太りの隊員が来た
『木村唯和』と名札を付けている、階級章は1等陸佐だ

「よろしいのですか?」
「いいよ、いいよ。もう課業終了してるから誰も来ないよ。それにみんな帰る時は正門使わないし」
「はい、ではここで修理します。原田!直すぞ!」
「了解!」


……
………
車体の下に滑り込んでみたり、色々見てみる
しかし、これといって異常はない

「竹沼2尉、異常は見つかりません」
「う~ん…どうなってんだ?」

異常は見つからないのにエンジンがかからない
隊員たちは首を傾げた

急に官舎が騒がしくなった
1人の隊員が官舎から門へ走って来る

「誰だ?」
「余部さんじゃないですか?」
「何してんだよ、寝てろよ」

真っ青な顔をして走って来る
さっき医務室に行った余部だ

「余部、戻れ。寝てろ」

竹沼が余部に注意する
しかし余部は陸上選手のようなフォームで竹沼たちを完全に無視し走り去り、門の横にいた警務隊の隊員に飛びかかった

「うわ!何すんだ!ヤメロ!」
「…え?余部?」
「何をボサッとしてる!岸、原田 アイツを止めろ」

木村1佐に命令されて岸が余部を羽交い締めにする
しかし、羽交い締めにされた状態から岸を投げ飛ばした
警務隊員から9mm拳銃を奪うと岸に向けた

「余部!何してんだ!」
「あぁ…よ、余部。ヤメロ、やめろよ」

岸は絞り出すように言ったが余部には聞こえなかったようだ
乾いた銃声が一発
右下腹部に命中
防弾チョッキなど装備していない
銃弾は貫通し岸隊員は腹から血を流し苦しむ

「救急車!救急車だ!」
「余部ぇ!何してるかぁ!」

余部はこめかみに銃口を当て躊躇無く引き金を引いた
乾いた銃声が一発
余部の頭部右側から侵入した9mm弾は脳みそを掻き回し、左側へ飛び出し拳大の穴を開けた
脳みそと鮮血を飛び散らせ倒れこんだ

「きゅ、救急車ぁ!」
「岸!余部!」
「衛生班!衛生班呼べ!」

独特のサイレンを鳴らしながら1トン半救急車が官舎裏から走ってくる
同時に官舎から担架を持った衛生隊員が全力で走ったかと思うと段差に足をとられすっころんだ

「うぇぇぇ」
「うわっ!吐くなよ!」
「竹沼2尉、原田士長がゲロしました」
「それどころじゃねぇよ!アンビ!こっちだ!」

竹沼は両手を振り救急車を誘導する
玉砂利を撒き散らして救急車は余部の横に急停車した
すると救急車から衛生隊員が飛び下り、素早く余部と岸を応急処置をする

「竹沼2尉、余部はダメだ。頭がえぐれてる」
「くそ!何でだ!余部は医務室に居たんだろ!?何でだ!?」
「分からない、寝てたのに急に立ち上がってな」

担架に余部が載せられ救急車へと運ばれる
他の隊員が取り囲み声をかけた
岸の治療は行われていたが救急車は官舎へと走り出す
ちょうど担架を持った隊員が官舎から到着した

「す、すいません。佐藤千鶴2士です」
「佐藤!こっちこっち!」
「は、はい!」

2士とは陸上自衛隊では2等陸士の事だ
現役の自衛官の中では最下級になる

「誰?」

竹沼が率直に言った
竹沼の小隊にはWAC(女性自衛官)はいない
中隊には居たと思うが佐藤というWACは聞いた事が無い

「この前配属されたヤツでな衛生科にも所属してるんだと」
「へぇ…」

竹沼にとって新隊員のWACより古参だった余部を失ったのがでかすぎる
木村1佐が竹沼に近づいてくる

「竹沼2尉、余部は残念だった。御家族への連絡はこっちでしておく。それでな…」

木村1佐は言葉を詰まらせた
言いづらいことなのか、しかし竹沼が促すと申し訳なさそうに言った

「悪いんだが、この前ヘリの事故があっただろ?その現場に事故調の調査官を送って欲しいんだ」
「自分がですか?」
「命令じゃないし誰でもいいんだよ。ただ元々、竹沼2尉に頼もうと思ってたんだよ」
「いいですよ。明日はこの分だと訓練出来ないでしょうし、警務隊の取り調べでしょう。それぐらいの仕事引き受けますよ」
「すまんな。しかし、余部は何で…」

誰にも分からなかった

何故余部は突然起きたのか
何故拳銃で岸を撃ったのか
何故自らの命を絶ったのか

湧き水のように疑問は湧いて出た
薄暗くなってきた空はいつもと同じだったが駐屯地は課業終了したというのに騒
がしく投光器の灯りで昼間のように明るい
余部の流した血は赤から黒に変色してきた
投光器の灯りを反射し黒く、ただひたすら黒く光った


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