上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
夏の章 第一話 「夏の日」
2010年 8月2日 月曜日
10時36分 第四二管区隊舎

暑い…冷夏だと言った奴を閻魔様の所へ連れて行ってやりたい気分だ。
冥界は、日本にあるので夏は暑く冬は寒い。しかもクーラーと呼ばれる文明の力(りき)はなく、団扇(うちわ)か氷で冷房をするしかない。

昨日はこの暑さで死んだ人の裁判を終わらした所だ、久しぶりに未練が無い魂だったので今回は徳を貰えた…
魂の未練には関わらないようにしているが……断れないのが僕の性格だ。小隊長も呆れているのか、最近は何も言わない。
しかし、閻魔様には怒られる、おかげで徳も貯まらない…

「祐一、相談があるのですが、居ますか?」

僕の部屋の中にノックの音と少女の声が響く。
「居ますよ」

僕が返答すると少女が僕の部屋に入ってきた。
「今度お盆にですね、区隊が2日間休みになります。その時に隊員で何処かに行こうとなっているのですが何処に行きたいですか?」

少女は休日の話しをしている、というかこの少女こそが我が第四二管区隊第一小隊小隊長「藍坂雛」なのだが。

「夏ですから、山か海ですね。どちらかって言われると海ですけど」
「海ですか…」
藍坂は少し考えこんでいる。
「私は山がいいのですが…祐一がそこまで言うのなら仕方ありませんね」

いやいや、そこまで言ってない

「祐一は姫野隊員の水着が見たいと姫野隊員に伝えておきますから」

藍坂はそう言うと部屋を出て行った。
「ちょっと!小隊長!」
時既に遅し、藍坂は部屋を出て待機所の方へと歩いて行った。
藍坂を追いかけて待機所へと向かう。しかし、待機所に居たのは藍坂と新聞を読んでいるオッサンだけだ。

「区隊長、第二小隊は…」
オッサン…否、区隊長は顔を上げて言った。
「ん?第二小隊?さっき出動したけど?」

最近、暑さで死ぬ人が多い。特に幼児と老人が。幼児は自分が死んだ事に気付い
いないから裁判も楽ですぐ終わるが、老人は自分の死に納得してなかったり未練があるからややこしい、と樫山が言っていた。

「第一小隊も出動あるかもしれないから準備しといて」
休みとはいえ出動命令があるかもしれないのがこの仕事だ。
「小隊長、今日の予定は何ですか?訓練ですか?」
少し間があってから答えが返ってきた。
「そうですね…走りましょうか」

藍坂と僕は隊舎のグラウンドで走る事になった。藍坂は長い事案内人をしているが体力は小学生並だ、藍坂にはランニングでは勝てるが鎌の扱いでは勝てたためしが無い。

ここで少し説明するが、案内人を含め魂は肉体的に成長することは無い。何故、走るのかというと、精神力を鍛え、自分に打ち勝つ為に走っている。

しかし暑い、 20分も走らない内に藍坂が脱落、僕も5分後に脱落した。
「小隊長、今日は暑すぎです。倒れますよ」
木陰で座る藍坂は気持ち良さそうに水を飲んでいる。
「確かに、暑すぎですね。少し休みましょうか」

木陰でしばらく小休止と言われたがこの暑さでもう一度走りたいとは思わない、藍坂も走りたいとは思っていないだろう。
小休止は1時間近くあり昼御飯の時間になったので隊舎の奥にある食堂へと足を運んだ。

二人でざる蕎麦を啜りながら話す。
「最近出動が多くないですか?小隊長」
僕の問いに藍坂は返答するがツユにワサビを入れすぎたのか目尻に涙を溜めながら話す、あくまで冷静を装っているが明らかに辛そうだ。藍坂のツユにワサビを入れたのは僕だが。

「最近、暑いのが1つの要因です。気候が極端なこの季節と冬場は老人や幼児の寿命のピークです」
いつの間にか僕のツユにはワサビが大量に入っている、藍坂は自分の分でいっぱい いっぱいでとても僕のツユにワサビを入れるとは思えない。
一体誰が…後ろを向くとワサビのチューブを持った女の人が立っていた、ニヤニヤ笑っている。この人は隊舎の奥にある売店で働いている霧島さんだ。

藍坂はフテキな笑みを浮かべながら話す。
「残してはいけませんよ」
残すものか全部食べきってやる
一口食べると鼻にツーンと来る…どころではない!脳ミソが爆発する!
霧島が後ろで大笑いしているのを聞きながら目に涙を溜めて必死でざる蕎麦を完食した。

「き、霧島さん何をするんですか」
目が涙で霞む。
「いや~、ゴメンゴメン。まさかあそこまでスゴいとはね」
「酷いですよ、死ぬかと…あ、死んでた」

霧島はケラケラと笑う、僕はホントに頭が爆発するかと思うほど辛かったのだが。

「祐一、アナタ自分のしたことは棚に上げるんですか?」
藍坂も目に涙を溜めている。
「す、すいません小隊長。ワザとでは」
「無意識にあそこまでワサビを入れるとはね。何か悩み事でもあるんですか?」
首を横に振り、否定の意思を伝える。
「そうですか…では、待機所に戻りますよ。霧島さんは売店に戻りなさい」
は~い、と霧島は売店の方角へ歩く、藍坂と僕は待機所へと向かった。

昼からは出動命令も無く、夏の暑い昼下がりを団扇1つで満喫しつつある。
ふと、時計を見ると17時を少しまわったところだ。
「小隊長、本日も勤務ご苦労様でした。お先に失礼します」
汗でベタついた制服を脱いで風呂に行きたいところだ、しかし
「あ、祐一。話があるので少し待って下さい」
早く着替えたい願望は見事に打ち砕かれた、いつもなら晩御飯の時間を決めて自由なのだが今日はいつもと違うようだ。
「何でしょうか?」
床に座るように藍坂が促す。
「アナタが着任したのは3月の末です、今は8月です。この4ヶ月で支給された徳は1200徳です」
少な過ぎです

藍坂は少し怒っているようにも心配しているようにも見える。
「前にも言いましたが、死者と仲良くなるのは止めなさい。大体アナタは……」
藍坂の説教は続く、その間僕は正座で俯いたままだ。要は、死者と仲良くするな、徳が貰え無くなる、と言いたいらしい。

「祐一!聞いているのですか!?私はアナタの為を思って言っているのですよ?」

「はい、真摯に受け止めております。しかし僕は死者には未練なく冥界に逝って欲しいと考えています、なので徳が貰え無くてもその分働けばいいと思っています」

徳が貰えようが無かろうが構わない、死者には未練が無いほうがいいに決まっている。

藍坂は表情を全く変えない。
「そうですか…アナタの言いたい事はよく分かりました…」
戻って構いません。
そう言うと、藍坂は自分の部屋へと行ってしまった。

食事も1人で食べる、いつもより味気無い…
いつもは藍坂の嫌いなモノを無理矢理食べさせられたりしたが、それはそれで良かった。会えない訳ではない、だが何故か今までのように会えない気がする。

「祐一、これを食べて下さい」
振り向くと藍坂がいた。皿にはピーマンの肉詰めが載っている。
そして藍坂はピーマンの肉詰めに愚痴る
「何で、ピーマンに肉を詰めるんですか?ハンバーグならハンバーグでいいのに、何でわさわざピーマンに…あっ、ピーマンだけですよ!肉はダメです、私が食べます」

相変わらず野菜は僕に食べさせるのか、だがこれの方がいい。1人で自分の分だけ食べるより2人で食べる方がいいに決まっている。今まで通りの関係で十分だ。
「まったく…僕の皿に置いといて下さい。食べますから」
「さすが、私の部下だけあります」
僕の隣の席に移動すると自分の肉詰めからピーマンだけを綺麗に剥ぎ取り、僕の皿に移した。藍坂はピーマンの肉詰めから小さめのハンバーグへと形を変えたモノを頬張る。
「やっぱりハンバーグは美味しいですね」
美味しそうにハンバーグ(元、ピーマンの肉詰め)を頬張る藍坂は幸せそうだ。
僕の未練云々の発言は気にしていないのだろうか。今ならさっきの発言を許して貰えそうな気がした。
「小隊長、先ほどは失礼しました」
藍坂はピタッと食べるのを止め箸を置いた。
「さっき?何のことですか?」
首をかしげる。
「待機所の未練云々の話しのことです」
その言葉でようやく思い出したのか
「ああ、それの事ですか。別に構いませんよ。祐一には祐一なりの考えがあるんですから、私は規則に従うのを信条にしているだけです。祐一が未練を無くしてあげたいならそうしなさい。但し!途中で逃げる事は許しません」
藍坂の言葉は胸につっかえていたモノを取り除いた気がした。何だかスゴいスッキリした。
「小隊長…ありがとうございます」
僕の予想だにしない発言に藍坂は驚いている。
「え…?ちょっと、ど、どうしたんですか?そ、そんな事言っても何も出ませんよ」
藍坂は残っていた食事を一気に食べると足早に自分の部屋に行ってしまった。
藍坂の耳が真っ赤だったが、まあ放置しておいて問題無いだろう。
僕は自分の分の食事と藍坂のピーマンを食べきってその日は終わった。

明日からまた死者の魂を案内する仕事が始まるだろう、バシッと仕事をこなして、死者の未練も出来る限り解決してやろう

僕は僕の信念は突き通す

第一話 終
第二話へと続く

スポンサーサイト
Secret

TrackBackURL
→http://436c75746368.blog73.fc2.com/tb.php/26-78e37e44
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。