上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
とある私立高校
一階の階段の下は主に倉庫として使っていた
しかし、昨年からとある部活の部室として利用されている
奥行き1,5メートル、高さ2,5~0,3メートル 、幅3メートル、蛍光灯、コンセント完備
そんな狭っ苦しい部室を使うのは「歴史研究同好会」という部活だ
「歴史研究同好会」というのは名前だけで実際はミリタリー好きが集まりエアガンを持ち寄りサバゲに勤しんでいる
故に一部の生徒からは「軍部」と呼ばれていた


「田ァ~、今日は何する~?」
「今日か~…何をしようかぁ」

退屈そうに雑誌を捲る男子生徒が二人いた
蛍光灯の灯りに週刊マンガ雑誌が浮かぶ
二人はただ雑誌眺めるだけできちんと読んでいない、適当にページを捲りぼんやりしている

その時、バタバタと階段を駆け下りる足音が部室に響いた
衝撃で吊り下げ式の蛍光灯が揺れ、それを見た生徒がため息を吐いた

「安藤か」
「だな」
「階段は歩けよ、常識的に考えて」

足音は部室の前で止まった、と同時に扉が開き部室に天然の太陽光が差し込んだ
開けた主は太陽光が逆光になり殆んど見えず、黒い影だけが見えた

「田畑ァ!お前部活紹介の原稿書いたんかァ!?」

扉を開けるなり怒鳴り散らした
声はコンクリートの部室の壁に跳ね返りワンワン響く

「あ…悪い、忘れてた」

部長…田畑忠道(タバタ タダミチ)は一瞬呆気に取られたが、そういえばそんな事もあったな、思い出し鞄のなかでぐしゃぐしゃに潰れた原稿用紙を取り出した

「忘れとったちゃうぞお前!明日やねんぞ!はよ書けや!」
「仕方ない……今日の部活は全員でこれ考えるか」

露骨に面倒臭そうな顔をしながら田畑の向かいに座っている男子生徒が田畑の読んでいた雑誌を鞄に仕舞い、机に原稿用紙のスペースを用意した

「なぁ安(ヤス)…谷と八は?来てないけど」
「知るか……おっとハゲ山の到着や」
「安藤ォ!誰がハゲか!武山だと言うてるだろが!」

熱血体育教師を絵に書いたような白地に青いラインの入ったジャージを着た男が階段を下りてくる
見たところハゲてはいないが まぁアダ名とは元来適当なモノだ

「武さん、谷と八は?」

田畑の向かいにいた男子生徒が話す

「何だ、向島(ムカイジマ)は居たのか。てっきり谷原と八矢みたいに辞めたかと
思った」

部室の時間が止まった
扉の横で武山の話しを聴いていた安藤は眼球が飛び出るのではないかというぐらい目を見開き、椅子に座って聴いていた向島は椅子からずり落ちそうになり、田畑は原稿を書いていたがシャーペンの芯を盛大な音を立てて折った

「辞めた?……谷原と八矢が?」
「ミリタリーはモテんとか抜かしてたぞ」
「あいつら~…田ァ!しばきに行こう!」
「アホか……なぁ安藤…この学校って部活の最低人数って何人?」

また時間が止まった
全員が「あ」という口の形を作り、ようやく気付いた
この学校の部活の最低人数は五人
つまりギリギリ足りていたのだが、それは昔の話し今は足りていない

「田畑ァ!原稿や!新入生を入部させな!」
「ヤバいヤバい、部活手当が消えたらヤバい」
「安!ビラ!ビラ作って勧誘しよ!」

恐慌状態とはまさにこの事だろう
ちなみに校則でビラ勧誘は禁止されている

「原稿出来たァ!」
「早っ!見せろ!」

武山が田畑から原稿用紙を奪うように取った
頷きながら原稿を読んでいく

「よし、これでいい。コピーしてくるから出来るだけ暗記するように」

そう言うと武山は職員室に走っていった
階段を駆け上がる時に部室の天井に吊るした蛍光灯が細かく揺れた

田畑「これで一人は入るかな」
向島「一人ならダメだろ」
田畑「俺が一人は何とかする」
向島「マジで?」
田畑「ちょっと行ってくる」

通学用の鞄を肩に掛け田畑が部室から出ようとしたが、扉の横にいた安藤がそれを止めた

「お前、暗記せなアカンやろ」

五厘刈りで眉も薄く、バリバリの関西弁 安藤兼次(アンドウ カネツグ)は異様に威圧感がある
見た目はヤンキーで毎日喧嘩してそうだが実は真面目な読書家で成績優秀だ
しかし、勉強だけで体力が鈍るのを恐れて仲間の田畑に誘われこの同好会に入っている
一方、田畑の見た目は勉強が出来、難関校へ受験してそうだが実際歴史と国語、体育以外さっぱりで安藤に教えてもらっている
そして向島三郎(ムカイジマ サブロウ)は顔は整っているが見た目は小学生並みに小さい。しかし運動神経が人一倍よく人並み離れた動きをするが勉強はさっぱりでこれまた安藤に教えてもらっている

「頼むって、絶対入部させるから」
「明日どないすんねん」

田畑はニヤッと笑い安藤を指さした

「頼む」
「絶対連れて来いよ?」
「任せれ、俺は部長だぞえ?」

そう言うと田畑は下駄箱へと走った
すぐ、後に武山が息を切らして原稿のコピーを持って来たのを安藤に渡した
武山も安藤に任せるつもりだったようだ
安藤は吹きそうになったが原稿を覚える事に徹した
選択肢はそれしか残っていなかった


次の日
昼休み

田畑が部員と顧問に昼休みに部室に来るように言ったのは身体検査の時だった
田畑と向島は同じクラスだが安藤は違うクラス、ちなみに安藤の担任は武山だ

「安藤、ちゃんとお前覚えた?」
「完璧や。あんなもん30分で覚えれる」

部室の中はけっこう狭い
部費で購入した歴史の本や軍装の本が積み上げられタワーを作っていた
そこに男が三人居るのだから余計に狭く感じる

「武さん、部室代えてよ。狭いって」
「贅沢言うな、東側の倉庫も使ってるだろ」

この学校は階段が西側と東側の二ヶ所あり、どちらも田畑たちが使用している
西側でいつも過ごしておりエアガンや迷彩服は東側の倉庫に仕舞っている

「それにしても田ァのヤツ遅いなぁ」
「ホンマや、昼休みになってから15分過ぎたで。小説が30ページ読めるわ」
「安藤、小説換算はやめろ。それに細かいこと気にしたらハゲんぞ」

ちょうどその時、部室の扉が勢い良く開いた
今まで蛍光灯の光だった三人は太陽に目を眩ませながら扉の方向を見た

「待たせたな」

異様に低い田畑の声がしたが逆光で殆んど見えない
仕方なしに安藤ら三人は外に出る事にした

居たのはやはり田畑だった

「スマンスマン、ちょっと遅くなった」
「田ァ、俺らをここに呼んだのはアレか?」

田畑は不敵な笑みを浮かべ言った

「当たり前」

パッと階段の方向を向くと
こっちだよ、早く
と階段に向かって田畑は誰かを呼んだ

階段の踊り場から現れたのはこの学校の制服を身に付けた女子だった

「…女子?」
「田畑…この娘は?」
「コイツは俺の従妹でさ。今年からの新入生でな元々入部させるつもりだったんだよ、コイツの兄さんが自衛官でミリタリーに多少興味もあるし完璧だろ?」
「如月佳奈です、忠道兄さんがお世話になってます。よろしくお願いします」

呆気に取られていた三人だが突然歓声を上げた
向島は感動のあまり映画「プラトーン」のあの体勢になり、安藤はガッツポーズを繰り返している
武山は一年生の担任でない事を悔やんだ

「よし、後一人や」
「兄さん、今から身体検査だから行くね」
「おぅ、放課後にココな」

首を縦に振り了解の意志を伝えた如月は二階へと消えて行った

「田畑!どういうことや?中学からの付き合いやけど俺は知らんぞ」

安藤が田畑の胸ぐらを掴みながら言った
端から見ればヤンキー安藤が優等生田畑を脅しているようにしか見えない

「今年からこっちに来たから安藤が知らないのも当然だろ」

田畑は安藤を宥め、とりあえず部室に戻り、後一人をどうするかの相談をした
もし勧誘会で誰も来なかったら廃部になる
武山の権力は無いに等しく、廃部を阻止することは困難極まりない
つまり勧誘会に全てがかかっている

「武さん、勧誘会何時から?」
「1320(ヒトサンニイマル)時から」

時計は1時過ぎを指している

「行かないとダメじゃないか」
「そうだな、安藤頼むぞ」
「任しとけ」

誰一人として安藤を心配しなかった


体育館

この時間は新入生の部活紹介の時間に充てられ部活をしていない在校生は帰宅を始めていた

「あ~…あの帰ってるヤツラが入部したら安泰なのになぁ」

向島が体育館の二階から校門方向を見ながら呟いた
横にいる野球部のユニホームを着た男子生徒が笑う

「それなら、野球部も欲しいよ。メンバーギリギリだからな」

この高校は部活をしない生徒が全校生徒の約半数もいる
おかげで野球部のように試合のメンバーギリギリという部活が複数ある
しかしサッカー部は人気で部員が五十人を越えている上、毎年新入生が三十人規模で入部していたり人気の差は激しい

「サッカー部の人気は羨ましいなぁ」

田畑の左隣にいた男子生徒が呟いた
男子生徒はラグビー部の三年生で野球部同様部員の少ない部活の一つだ

「田畑…お前の同好会大丈夫か?」
「大丈夫ではないですね、一人足りないんで」
「一人足りないの?お前それヤバくない?」

正直かなり危ない位置なのだが田畑はさほど心配していない
何故ならスピーチは安藤がやるからだ
田畑がスピーチするより安藤なら入部希望者が増えると田畑と武山は判断した

『次は「歴史研究同好会」です』

体育館に響きわたる司会の声
壇上にネクタイをかっちり締めた安藤が登った
何故か水色地に国連のマークがプリントされた腕章をはめマイクの前に立った

『え~…新入生の皆さん入学おめでとうございます』

マイクは入っているのか疑いたくなるほど小さい声だ
しかし、このスピーチは安藤の作戦だった
スピーチの最初は小さな声で行う
すると、聴衆は演説者が何を言っているのか気になりスピーチを聴いてくれるという訳だ

『我が「歴史研究同好会」は………』

少しずつ新入生の興味が向いているのが田畑にも分かった
うつむいていた生徒も安藤を見ている

『以上で終わります』

最終的には新入生全員が安藤のスピーチを聴き入っていた
さてこれで部員が増えれば言うこと無しだ
田畑を含めた部員は部室へと向かった


放課後

部活の勧誘会が終わるまで田畑たちは部室でダラダラと過ごし如月が来るのを待った

「部員…増えないかなぁ…」
「知るか、安藤のスピーチは完璧だった。待つだけ」
「そうだよなぁ…にしても暇だなぁ」

特にすることが無いからだ
歴史研究をする訳では無いし、かといってエアガンを校内で射撃するのは学校側から禁止されている

その時、部室にノック音が響いた

「誰か?」
「佳奈ちゃんやろ。ちょうど終わったぐらいやし」
「入っていいよ」

金属製の重い扉は軋みながら開いた
そこにいたのは田畑より少し背の小さい女子生徒で確実に向島や如月より背は高い
どうやらリボンを見る限り一年生である

「…誰?」
「あの…入部希望なんですが…」

部室の時間が止まった
全員の頭の上にクエスチョンマークが現れ事態を飲み込めていない

「入部希望者?」
「はい」
「マジで?」
「はい」

田畑が訊くことに一回一回頷き返事をする
頷く度に長い髪が揺れる

『よぉぉっしゃぁぁぁ!!!』

部員全員が跳び跳ねた
女子生徒はきょとんとして今度はこちらが事態を飲み込めていない

「良かったぁ!実は部員が足りなかったんだよ。助かったぁぁぁ」

田畑はこの女子生徒を抱き締めたくなったがさすがにマズイので自重することにした

「え?あ、はい。あの…入部届を」

田畑に一枚の紙切れを渡す
後ろの安藤や向島は万歳をしている

「え~と、笹倉あや…」
「綾(リン)です」
「ああ、笹倉綾。へぇこれでリンって読むのか」

よろしくお願いします

笹倉は深々と頭を下げた
長く伸ばした黒髪が揺れた

「はい、よろしく。俺は部長の田畑です。今日は疲れてるだろうし帰っていいよ、詳しい事は明日するから」
「はい。お願いします、田畑部長」

また深く礼をすると笹倉は出て行った
入れ替わるように如月が入ってくる

「兄さんゴメン、掃除当番で…何の騒ぎ?」

まだ安藤と向島が万歳をしていた
誰が見ても疑問を抱くだろう

武山が来た時に同じ説明をしなくてはならないのか…

一瞬煩わしく思ったが嬉しい知らせだと思うと煩わしさはどこかへ行ってしまった

本格的に部室の移動を武山に頼むか

田畑はそう考えると万歳したくなった
しかし、如月に説明する方が先だ
田畑は如月に説明すべく大きく息を吸い込んだ




スポンサーサイト
Secret

TrackBackURL
→http://436c75746368.blog73.fc2.com/tb.php/237-90dea22e
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。