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「でも選んだらコイツがねぇ…姉様の夫にねぇ」

真っ暗な視界の中でオロチキミコの声が響く
俺は訳の分からない恐怖に囚われ方向も分からぬまま走った
しかし走っても走っても声は聞こえてくる

「うわぁ!!」

文字通り飛び起きた
起きた拍子にベッドから転がり落ちそうになる

ここは…俺の部屋か?
あれ?オロチキミコに毒を打たれて…
それでヒメコは元人間で…あれ?夢?

俺の『うわぁ!』という声がリビングに届いたからか誰かが扉が開けた

「勇太?起きたのか?」

ヒメコだ
……さっきのが夢でなく事実ならヒメコは元人間ということか?
オロチキミコが言っていたあれは…
夢であってほしいが…

「勇太…すまない、私の妹が」
「あ、ああ」

ヒメコは申し訳なさそうにうつむいて言った

「変な夢を見たよ…オロチカツトシとか言う蛇が出て来てな」
「オロチカツトシ!?そ、それはお父様だ」

うつむいていた顔をバッと上げ目を丸くする
驚いているのが一目で分かった

お父様はそんなにすごいのか?
いや、まあ確かに夢に出てきたし

「勇太、それは夢じゃない。きっとキミコの毒で幽体離脱したんだ。そこにお父様が神力で現れたんだ」

へぇ、それはすごいな
てか幽体離脱?
え?俺、死んでたの?

「……それより、あの、勇太に話しがあるんだ」

ヒメコの口調が重くなった
多分オロチキミコが言っていた話だろう
なんとなく、そう思った
でも俺、死にかけてたんだけど…
それよりなのか…まぁ今のヒメコにとってはそうなのかもな

「…あの、私がここに来たとき選択肢を言っただろ?それの事なんだ」

また俯き気味に話す

「…1つ教えてなかったから…それを…な?」

な? じゃないだろ
お前はそれでいいのか!?勝手に家の事情で結婚させられてそれでいいのか!?

「…実はな…選択肢は殺されるか………あの…」
「言うな」
「え?…いやでも」
「言わなくていい」
「…もしかして…キミコから聴いたのか?」

正確に言えば聞いたんじゃない
偶然聞こえたんだ

「実は、一瞬だけ目を覚ましてたんだよ。解毒剤がどうとか言ってた時にな」
「…そうか、そうだったのか。……なら勇太…勇太は私を…嫁に出来るか?」

ヒメコは真っ直ぐ俺を見る
いつものヒメコの目ではない、強い意志を持った人間の目だ

「勇太、私は勇太が好きだ。復讐するために勇太を調べに調べた。そしたらいつの間にか勇太を調べに行くことが楽しくなって…それで」

……はい?
え~と…告られた?
……………
はぅあ!
まてまてまて
落ち着け、落ち着け俺
平静を保つんだ

ヒメコは俺を好きだと言った
だが俺はヒメコの事が好きか?
ヒメコにそんな感情を持った記憶はない
俺にとってヒメコはなんなんだ
恋人か?だが少なくとも今の俺にはヒメコをそんな風に見ることが出来ない

「突然こんな事を言ってすまない…でもいいんだ、もう選ばなくていいんだ」
「どういうことだ?」

「お別れだ勇太、今までありがとう」

目を潤ませながらヒメコが言った
ヒメコの見た目は小学生から中学生なのに何故か大人の女性に見えた
今まで2週間程ヒメコと暮らしてきたがこれ程までヒメコの事で胸が苦しくなったのは初めてかも知れない

「な、何でだよ」
「私だって!」

ヒメコにしては珍しく感情を表に出し、大声をあげた
しかし気にせず続けた

「私だって、勇太と居たい、圭織や飛騨や皆と居たい。でも…お父様の命令は」

遂に涙が零れた
大粒のどんな宝石よりも綺麗な涙だった

「…ヒメコ」

ヒメコの涙は膝に落ちる
膝に落ちた涙はフローリングへと流れ少しずつ溜まっていった

「お父様の命令なんか知るか!」

俺は今まで生きてきた中で一番大きい声を出した
同時にベッドから降りフローリングの床に立つ
本気で腹が立ったからだ
何がオロチ家当主だ!くそ食らえだ!
娘を泣かすのが親か!

「そんな家に戻らなくてもヒメコは俺の家に居ればいいだろ」
「…ありがとう勇太……でもサヨナラだ」

首筋にチクリとした痛みを感じ、その方向を見る
…蛇?
この蛇…どこかで…
吊り下げ型の蛍光灯からダランと下がった蛇は俺の首筋に見事に噛みついている
途端に息苦しさを覚えフローリングに膝を着く

「キミコ、もういい…」
すまない勇太…ホントに好きだったんだぞ

意識を失う刹那、膝を着いた俺の唇に柔らかい感触が重なった
しかしその後スグに意識を失い倒れた、次に目覚めた時にはヒメコは居なかった



その日からヒメコはいなくなった
ヒメコを知る家族や友人にはヒメコの親類が迎えに来たと伝えたが誰も深くは訊かなかった
俺が気にしていると思ったのかも知れない

「ねぇ篠田くん…ヒメコちゃん行っちゃってから3週間だよ…そろそろ元気出そうよ」
「ああ…」
「大丈夫か?勇太」
「…ああ」
「……小野ちゃん、あれは完全にホの字だよ」
「………そうだね」

小野と飛騨の会話は聞こえている
しかし、いちいち言い返すのも面倒だ
惚れてる、惚れてないは正直どうでもいい
ヒメコが居なくなってから急に何かどうでも良くなっただけだ

「飛騨、先帰るわ」
「え?ちょっと待てよ、俺も帰るから」
「私もいいかな?」

何だよ、1人になりたかったのに
いや、別にいいけどさ

俺たちは、学校を出てとりあえずファミレスに行くことになった
飛騨が俺の悩みを聴いてやると言い出したからだ

「勇太が元気無いのはヒメコちゃんのことだろ?」

ファミレスに向かう途中の道で飛騨が訊いてきた
悩みを解決してくれるのか、興味本意なのか分かりにくいが多分後者だろう

「違う、アイツはもう俺には関係ない」

そう、もう関係ないんだ
アイツは自らの意思で家に戻った
だから俺とは関係ない

突然、飛騨が俺の胸ぐらを掴んだ

「……だったら何でそんなに辛そうにするんだよ!辛いなら辛いって言えよ!ヒメコちゃんに会いたいなら会いたいって言えよ!俺らは友達だろ!友達は支えあうモンだろぉ!」

両手で俺の胸ぐらを締め上げながら言った
飛騨は飛騨なりに俺の事を考えていたらしい
まあ飛騨らしいというか、何と言うか

「……飛騨、スマン。悪かった……ヒメコの事はもういいんだよ」
「もういいじゃねえよ!惚れた女1人守れないで何が男だ!取り返して来いよ!連絡無しで突然預けて、連れ戻して…ヒメコちゃんはモノじゃねえんだよ!今日はファミレスは無しだ!…取り戻して来い」

飛騨はピッとT字路の交差する道を人差し指で指す
そんな無茶苦茶な事を言うなよ
大体ヒメコは自分から行ったのに俺がどうこう出来る話しじゃないだろ

「バカ、俺にどうこう出来るかよ。小野もこのバカに何とか言ってくれ」
「……今回は飛騨くんのが正しいかな。篠田くんも正直になりなよ。ヒメコちゃんのこと好きなんでしょ?なら、早く行かないと」

行かないとってどこへだよ
大体ヒメコはもういいって

「諦めてるなら、そんな風に毎日ボ~ッとしないよ。ヒメコちゃんがいなくなって辛いのは篠田くんが惚れてる証拠だよ」
「だったら!…だったら俺は何をすればいいんだよ!アイツは何処に行ったか分からねえ!何処に行けばアイツに会えるんだよ!」

言い終わってから「しまった」と思った
小野に八つ当たりしても何もならない
俺はただヒメコにもう一度会って話がしたいだけだ

「何をすればいい?そんなの自分で考えなよ。何処に行けばいい?篠田くんならそれぐらい分かるでしょ?」

小野は俺を指指しながら言った
見間違いかも知れないが小野の目が若干潤んでいるように見える

その時、足元に小さな蛇が現れた
俺は感覚でこの蛇はキミコだと思った
というか二回も毒を打たれたんだ、忘れる訳がない
小さな蛇は俺をジッと見ると飛騨が指さした方向へ進んだ

「飛騨、小野。スマン、ちょっと行くわ」
「え?あぁ行ってこい」
「……いってらっしゃい…勇太…くん…」

蛇は振り向きこちらを見ている
俺が歩くのを確認するとまた進んだ

蛇は俺が付いて来ているか少し進んでは振り向き、確認している
何とも人間くさい蛇だ、こんな蛇はアイツラ以外にいないだろう

「お前、オロチキミコか?」

蛇の動きが止まった
チラッとこちらを見るとまた進んだ

「ヒメコはどうなった?」

蛇は気にせず進む

「俺をどこへ連れて行くつもりだ?」

気にせず進む
はたから見れば蛇に話かける只の痛い人だ
だがヒメコに会えるのなら気にする事はない
……俺はヒメコに会ってどうするんだ?
話しをして…それで…どうするんだ?

蛇の動きが止まった
よく考えるとこの道は俺が中学生の頃に通っていた道だ
この角を曲がると空き地がある
土地の買い手がつかず長い間放置されている空き地が…俺とヒメコが多分最初に出会った場所が

蛇がこっちを見ている
早く行け と言わんばかりの目だ
間違いない、コイツはオロチキミコだ
この人をバカにしたような目
忘れる訳がない

「ありがとな、キミコ」

蛇は返答することなくプイッと振り返ると元来た道を戻ろうとしていた
せっかく礼を言ってんのに
…いやアイツなりに気を遣ったのかも知れないな
俺はキミコにもう一度礼を心の中で言い、空き地へと走った

空き地の囲いが見えた
そのすぐ近くに黒い髪の少女がいる

見えるのは横顔だが忘れる筈がない
2週間も同じ部屋で過ごし俺に迷惑をかけたヤツを

「ヒメコ!」

少女は声のした方向へ首を動かした
同時に漆黒の髪が揺れる
やはりヒメコだ
見間違える筈がない
2週間向かい合わせでメシを食ったヤツの顔を

「勇…太?」

ヒメコは首をかしげた。どうして俺がここに居るのかわかってないらしい
俺はヒメコの50センチ前へと歩いた

「勇太、どうしてここに。せっかく驚かせようと思ったのに…」
「…ヒメコにな、もう一度会っておこうと思ったんだよ。それでヒメコは何で」

俺の前にいるヒメコは3週間前に居なくなったヒメコとは少し印象が変わっていた
髪が伸びているのもある、だが何か別の感じで違った印象を受ける

「あぁ、私な家を勘当されてしまった」

ヒメコはさらっと言った
勘当…ってなんだ?
でもいい事では無いだろう

「実はお父様は私が勇太の所に居てもいいと言ってくれてたんだが本家の一部と分家がそれを許さなくてな。ずっと勇太を諦めるよう説得されてたんだ、でも私が断り続けてたらとうとう家を追い出されてしまった」

追い出されてしまった?
じゃあこれからヒメコはどうするんだ?

「さて、勇太。私は勇太のせいで家を追い出されてしまった。今日から寝る場所もメシもない……責任とってくれるな?」

はい?
俺のせい?

「それはそうだろう。私が勇太を諦めなかったから追い出されたんだ、それは勇太のせいだろう。責任をとってもらう選択肢は……」

ヒメコは言葉を詰まらせた
俺はこの3週間ヒメコと会えなかった
そしてようやく会えた
さっきヒメコと会って気付いた
口の中はカラカラだし、心臓は異様に早い
でも今のこの感情だと納得がいく
そうか、さっき違った印象を受けたのはこのせいか

「ヒメコ」
「なんッ…」

衣擦れの音がした
胸元にヒメコの真っ赤に染め上がった耳があるのが目に入った
深く言わなくても大体分かるだろう
50センチ前にいたヒメコがすぐ近くに居て、衣擦れの音がした
…そういうことだ

「好きだ」

ヒメコを抱き締めたまま言った
ヒメコは真っ赤な耳を更に紅く染め、静かに頷いた

自分の耳にも音が聞こえそうなぐらい心臓が動く
俺はそんなにヒメコ相手に緊張しているのか?
逆に俺が驚いた

「……私と暮らせるか?」

俺がヒメコを抱き締めているからヒメコの声は込もって聞こえた

「当たり前だ…何年でも何十年でも一緒に暮らしてやるよ。だからヒメコ…」

俺の嫁に来い!

俺は住宅街だというのに大声で言っていた
恥ずかしさが込み上げてきたが、多分ヒメコの方が恥ずかしいだろう

「勇太…これからはずっと一緒だ、よろしく頼むぞ」

込もった声が聞こえた
これは良い返事だと受け取っていいのだろう

こちらこそ

俺は抱き締めていた力を緩め一歩下がった
真っ赤より更に赤いヒメコの顔が露になる

「ヒメコ、帰るぞ。お前まだ『いきもの地球紀行』のDVD観てないだろ」
「おぉ、そうだった。…勇太、一緒に帰ろう」

俺は右手でヒメコの左手を握った
ヒメコの手はスゴく暖かった
心地良い暖かさだ

「もう一度言ってくれ」

嬉しそうにヒメコが話す

「何を」
「もう一度、『好きだ』って言ってくれ」

何度でも言ってやる
ヒメコが満足なら何度でも言ってやる
俺はヒメコの黒い目を見て言った

『好きだ』と


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