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2009.12.16 死者には花を
カンカン照りの太陽
騒音問題にならないか心配になる蝉時雨
払っても払っても飛んでくる薮蚊
車から降りて迎えてくれたのは誰でもないそいつらだけだ

お盆だから実家にある先祖の墓に来た
理由はそれだけだ、でなければこんなクソ田舎に誰も来ない

集合墓地の真ん中辺りにある小さい墓が我が家の墓だ
墓の前までくると腰を落とし中腰になった
花と線香を供え、「南無阿弥陀仏」と手を合わせた

『さて、帰ろう』
一通り拝んだ俺は腰を上げ、車へと歩こうとした

「何じゃあ、ハナちゃんとこは線香と花だけかぁ」
「シケたヤツじゃのう」

墓地には俺以外いなかった筈なのに声がした
『誰かいたのか?』
俺は腰から上を捻るように振り向いた

振り向いた先には確かにいた
しかし、彼らは死装束を身に纏い我が家の墓を取り囲む用にして話していた
『近所のクソガキ?いや、ガキにしてはでかいな』
彼らは俺が見ている事に気が付いたらしい
気が付いたヤツが周りのヤツの肩を叩き知らせている

「アイツ、こっち見とるぞ」
「ワシらが見えるんか?」
「当たりやろか」
「ハナちゃん、文句言うたれ『お供え物が少ない』って」

酔っぱらいのようにゲラゲラ笑い、連中の中でも一番小さいヤツを前に出した
ハナちゃんと呼ばれているヤツはどうやら少女のようだ
長く伸ばした前髪で左目を隠し、俺が供えた花を金属バットを持つヤンキーのように引き摺りながら歩く

「お前…あたしらが見えてるのか?」

ハナちゃんは右目を細め警戒するように俺の顔を見る
糸のように細くした右目の奥で黒目が動くの分かった

「……見える」

別段驚いた様子も見せず、ハナちゃんは一歩下がると右手の花束を俺に突き付けた

「じゃあ、あたしの目はあたしから見てどっちが隠れている?」
「…左」

ハナちゃんはフッと笑った
すると、片足を一歩引き回れ右をした

「……見えてるみたい」

ワァッと歓声が墓地を包む
肩を抱き合い死装束の連中は俺を取り囲んだ

「いや~良かった良かった」
「ホンマやで、助かったわぁ」

何が良いんだ?理由を説明しろよ
大体お前ら誰だよ
見たところ知らないヤツばっかりだ

「兄ちゃんしっかり頼むで?」
「アンタに懸かってるからさ」

俺をほったらかしで話がどんどん進んでいく

「ちょっとストップ!何の話だよ!しかも誰だお前ら!」

再び墓地は静寂に包まれた
俺を取り囲んでいた連中は急に黙り込んだ
突然、死んだように黙るから逆に怖くなった

「な、何だよ」
「…兄ちゃん、ワシの事知らんか?」
「し、知らない」
「それや、兄ちゃんにはワシらの事を知っといてもらいたいんや」

どういうことだよ
何で俺がお前を知る必要がある

「ワシらは簡単に言うたら幽霊やねん。兄ちゃんみたいに墓参りに来るならええ、でもな最近は墓参りに来ぇへんヤツもおんねん。そしたらワシらは忘れられる、幽霊は忘れられたら死ぬんや。いくら墓があっても忘れられたら死や。その後思い出しても意味があれへん、この世と完全におさらばや」

関西弁の自称幽霊のオッサンはペラペラとよく分からない事を言った
…しかし幽霊か
まぁ墓地なら居ても驚かない、ぼんやりなら何回か見たことがあるからだ
でも、ここまではっきり見たのは初めてだ

「そこでアンタみたいな見える人に覚えてもらおうって事よ、普通の人は見えない聴こえない触れないだからね」

関西弁のオッサンの隣にいたハナが言った
水晶のように綺麗な瞳をしている

「特にハナちゃんは江戸の生まれやから知っとる人が木山の死にかけの糞坊主だけで危なかったんや」

兄ちゃんのおかげやで
ワシらを忘れたら承知せえへんぞ

幽霊たちは皆笑顔だ(それにしても関西弁多い)
確かに忘れられたら辛いだろう、俺もそれは嫌だ
誰も俺を知らない世界は辛いだろう
浦島太郎と同じか…
それは辛いな…

「分かった、覚えておいてやる」
「名前は覚えんでええよ、存在を覚えといてくれ。見えんでも居る者は居んねん」
「アタシはハナ、アンタのご先祖だよ。忘れたらダメだからな」

もちろんだ
大体こんな事を忘れる人間はいないだろう
俺は了解の意志を伝え体を車の方向へ向けた
振り返ると、来た時と同じ墓地があるだけで死装束を着た奴等はいない

『忘れるなよ?』

脳ミソにダイレクトにハナの声が聞こえた

『忘れてたまるか』

俺はメモ帳を取り出すと9月のページを開く
今年の秋の彼岸に実家に帰り、墓参りに行く予定をカレンダーに書き込んだ

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