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春の章 第六話「初仕事」後編
2010年 4月5日 月曜日
8時25分 病院

明け方近くに藍坂が戻ってきた。
「おはようございます、祐一」
霊安室の前で休んでいた僕は藍坂に声をかけられてようやく目を覚ます。
「お、おはようございます、小隊長」
「祐一、寝過ぎですよ。今、何時だと思っているのですか?」
藍坂はそう言うと早崎のいる霊安室へ入って行く、僕も後に続く。
「おはようございます、早崎さん」
藍坂の声に反応した早崎は
「あ、おはよう案内人さん」
「よく休めましたか?今日は18時から通夜があります、それまでは自由にして頂いて━━」
1度聞いた事のあるセリフだ、あの事故から1週間も経つのか…
「祐一?どうかしましたか?」
ハッと我に帰った、仕事中に感傷に浸るなど言語道断である。
「すいません、少し考え事をしていました」
「仕事中なんですからしっかりして下さい」少し呆れた口調で藍坂に言われた。
早崎は何か言いたげだったが僕は藍坂の後ろに居たため話しかけてこなかった。

早崎は見た目はおとなしそうに見えるが性格が明るい、それは幼稚園の頃から変わらず今も無駄に明るい。早崎が引っ越すときにそんな約束をしたことなどすっかり忘れていた。もしかしたら他にも忘れていることがあるかもしれないな。
結局、早崎とは話さないまま通夜の時間になった。早崎は棺の横に座っている、藍坂と僕は会場内の参列者を数えて廻る、藍坂に報告すると意外と参列者が多い事を聞いた。

通夜も無事終了。
藍坂は明日の説明をしている、今日は会館の片隅で寝ようか考えていた所に早崎がきた。
「ねぇ、ユウ君。お別れ会に言った事覚えてるかな?」
覚えていない…
「覚えてないの?ひどいなぁ、せっかくユウ君が言った事もう一度聞きたかったのにな」
残念そうだが、表情は笑顔だ。
理由は分からない。
「ゴメン、覚えてない」
僕の返答に早崎は不機嫌そうにそっぽを向いて呟いた。
「最後の最後にユウ君に出会えて良かったよ、やっぱり春は出逢いと別れの季節なんだね」
お別れ会の記憶はほぼ無い、微かに残るのは最後の約束ぐらいだ、しかも言われて思い出したぐらいだ。僕の記憶力の無さに自分でも呆れる。
早崎の為だ、思い出そうと会館の外に出ようとした。
「どこへ行くのですか?」
会館のロビーで藍坂に声をかけられた。
「死者と深い関わりを持ってはいけませんよ、あくまで私たちは案内人なんですから」
早崎との話しを聞いていたのだろうか、藍坂は徐々にこちらへ近づいてくる。そして藍坂の手が届く距離まで近づいてきた。
「祐一、もう一度訊きます。どこへ行くのですか?……どうして黙っているのですか?楠木案内人!これは命令です!答えなさい!」
藍坂の声が強くなる、尚も藍坂は続ける。
「祐一、アナタが私の命令を無視して行動しようとするなら私も実力行使に出ます」
藍坂は僕の袖口を掴み、話した。
「祐一、私はアナタの上官です。だから私の命令は聞いて下さい。アナタを個人的にとても信頼しています、だから…だから…」
藍坂は大粒の涙をポロポロと流しながら話す。
「だから…私を苦しめたり失望させないで…」
藍坂にとって信頼している人の裏切りは涙を流す程辛く悲しいもので今の僕の行動は藍坂への命令違反という裏切りだった。
「小隊長……分かりました、小隊長の涙には敵いません」

バカ…
藍坂の顔に少し笑顔が戻った。
涙を流しながら微笑んだので藍坂は泣き笑いになる。
騒ぎを聞きつけて早崎がロビーに来た。
「案内人さん、どうしたの?」
経緯を説明する
「それはユウ君が悪いよ。私はお別れ会の事は覚えてるからユウ君が言った事を言って欲しかっただけなの」
ゴメンね、案内人さん私のせいで
早崎は藍坂と同じ目の高さで謝る。
「いえ、早崎さんのせいでは…それに仲直りはしましたし」
藍坂は涙を拭きながら話す
「ユウ君、女の子を泣かすのはダメだよ?理由はどうであれ謝らないと」
早崎が促す、確かに勘違いで命令違反をしたのは僕だ、非は明らかに僕にある。
「小隊長…申し訳ありません…二度と命令違反は致しません」

涙を自分の袖で拭き、目を真っ赤にしながら話す。
約束ですよ…
藍坂は僕の袖口を離しロビーのソファーに戻ろうとしたが、早崎が声をかけた。
「案内人さん、一緒に寝よう」
藍坂は後ろを向いたまま話す。
「申し訳ありませんが死者と深い関わりを持つのは禁止されています」
間髪を入れずに返す
「そんなルール知らないよ、私の最後の願いだからいいじゃない」
藍坂の手をとり会館の奥へと歩いていく
「ちょっ…自分で歩けますから。引きずらないで」
早崎は何ゆえ藍坂と一緒に寝ようと言うのだろうか…
「祐一!アナタはロビーで休みなさい!」
引きずられる藍坂が叫ぶ、多分藍坂からの命令だろう。今日はロビーで休む事にした。
昨日感じた嫌な予感は今日のことだったのか?

2010年 4月6日 12時48分
月曜日 三途の川

早崎の葬儀は恙(つつが)無く終了し、僕たちは三途の川の手前まで来た。
「では、早崎さん。あちらの脱衣婆に死装束をもらって着替えてきて下さい」
藍坂が脱衣婆の方を指差す。
「はーい、分かりました。あっ、ユウ君、覗いちゃダメだよ」
「覗きませんよ!」
そんなことしたらどうなるか分かったもんじゃない。
「祐一、覗くのですか?」
何を言っているんだこの人は
「だから覗きませんよ!」
「冗談に決まっているでしょう?何を本気にしているんですか?」
藍坂は「してやったり」といわんばかりの笑顔だ、この人の冗談は重いから困る。
「祐一、アナタは先に裁判所に行って書類を渡しておいて下さい。私は早崎さんと後から向かいます」
裁判を早く始めるには早めに裁判所に書類を提出すればいいらしい。
「了解しました。では、先に裁判所に出発します」
僕は三途の川を渡り裁判所へと歩いた。
いつ見ても橋姫の半笑いの顔は腹が立つ。

13時26分 裁判所

今日の裁判所は満室だが待っている死者はいなかった。
裁判所の受付に書類を提出し、第一八法廷の前で待つように言われた。
…………暇だ……………

30分ほどして藍坂たちが合流した。
「祐一、何分ほど待っていますか?」
「え~と、30分程ですかね」
じゃあ、もうすぐかな
藍坂が呟くのと、ほぼ同時に扉が開き中に通された。
中にいたのは、前に僕を裁いた閻魔様とは別の閻魔様だ。
「では、俗名『早崎桃子』の裁判を開廷する」
ちゃんとした裁判を見るのは初めてだが裁判らしい裁判ではなく、閻魔様が訊く内容に嘘偽りなく答えるだけだった。
つまり、嘘をつけば問答無用で悪人となり罰が与えられるという訳だ。

「判決を言い渡す。俗名『早崎桃子』は冥法第一二条『両親を遺したまま逝去の禁止』に違反したため、冥界において6ヶ月間の奉仕及び基本奉仕期間3年を命ずる。以上、閉廷━━」
裁判は呆気なく終了した、早崎は職員に呼ばれ今後の説明を受けている。
「早崎さん、今から仕事の内容等を説明しますので付いてきて下さい」
早崎が少し待って欲しい、と職員に言う。
職員は嫌な顔をしたが、「5分だけですよ」、と許した。
早崎は早足で僕の方に歩いてきた。
「お別れ会の時にユウ君が言ったの忘れてるみたいだから教えてあげる」
━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━

「じゃあね、ユウ君」
早崎は1つの言葉を言うと歩き始めた。
「桃子!また今後な!」
僕からの早崎への最後の言葉だ。
振り向いた早崎は笑顔で手を振った。
「ユウ君、ありがとう。またね!」
そう言うと早崎は職員と共に何処かに行ってしまった。
本当にどこかに…

「楠木案内人!少し話しがあります」
そう言ったのは閻魔様だ。
「はい、楠木案内人です」
少し閻魔様は怒っているように見える。
「楠木案内人、君は小隊長の命令を無視しようとした挙げ句、泣かせましたか?」
まさか、裁判か?
「は、はい。しかし謝罪しましたし━」
僕のセリフの途中だが閻魔大王は話す
「判決を言い渡す。案内人、楠木祐一は命令違反未遂を犯し、藍坂小隊長に精神的苦痛を与えたとして、今回支給予定であった百徳を没収する」
感動の別れも全てパー、徳は没収され、閻魔大王から説教を受ける…
一昨日の嫌な予感はこれだったのか…

重い足取りで隊舎への帰路につく。
「祐一、気を落とさないで。また働けば貰えますから」
足取りが重いと気分も沈む
「はい、分かっています」
少し間があったが藍坂が話した。
「少し話しが変わりますが、早崎さんに最後何と言われたのですか?」
「内緒です」
藍坂なりに場の空気を和ませているのだろう
「どうしてですか?いいじゃないですか、教えて下さい」
「ダメです、あの言葉は別れの言葉なんですから」
「別れの言葉…そうでしたか、では聞く訳にはいきませんね」
まだ別れには早すぎます
藍坂の言葉は少し場の空気が和ませた気がした。
「小隊長こそ昨日早崎と一緒に寝て何の話しをしたんですか?」
藍坂は少し微笑みながら
「秘密です」
「では、お互いさまですね」
僕と藍坂は満開の桜並樹を歩く。
「小隊長、僕は小隊長の下で働ける事を誇りに思います。これからも宜しくお願いします」
僕の言葉に少々戸惑ったようだが。
「こちらこそ」そう言うと笑顔を浮かべた。

藍坂が隊舎の扉を開け、僕と藍坂は右手で挙手の礼をしながら藍坂が言った。
「第一小隊小隊長『藍坂雛』、及び隊員『楠木祐一』只今帰還致しました!」
三人はニヤニヤ笑っている、僕が藍坂を泣かしたからだろう。
「ねぇねぇ!ユウ君!雛ちゃんと何があったの!?教えてよ」
姫野さんか…予想した通りだな
まったく、この人は…
「そんな野暮ったい質問はやめましょうよ」
僕の返答に姫野は頬を膨らませ、樫山や区隊長も残念そうな顔をしている。
雑誌の記者か…

三人の反応を見て藍坂の顔に少し笑みが見える。
「祐一、報告書を作成して今日は終わりです。終わったら晩御飯にしましょう」
今日の食堂のメニューは野菜炒めだった筈だ、今日こそ小隊長には好き嫌いなく食べて貰わないと。
案内人とは関係ない決意を決めた所だ。


春の章 終
夏の章に続く
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